真実(まこと)の愛

「麻琴さん……この前は突然キャンセルして、本当に申し訳なかった」

いつものどこか人を喰ったような雰囲気から一転して、松波は真剣な目をして麻琴に向き合った。

「きみとの約束を取り消したにもかかわらず、(かける)の店にほかの女性と現れたことで、きみの気を悪くさせてしまったよね?」

「スマホの通話でも言いましたけど……別に、気にしてませんから……」

麻琴は彼の目の強さにたじろぎ、思わず自分の目を伏せた。

「この前、あの店で一緒だった彼女は、大学時代に諒志たちといろんな大学を交えてつくった、テニスサークルのメンバーなんだ」

諒志、というのは松波の親友で、実に世間が狭いことに、麻琴の従姉妹(いとこ)である田中 七海の夫だった。そのことに気づいたのはつい先日だ。

大手証券会社の重役の父親を持つ、当時T大生だった彼は長身のイケメンだった。今では、金融庁に勤務する若きエリート官僚である。
「類友」とはこういうことだ。

……さぞかし(きら)びやかなセレブリティたちが集うサークルだったでしょうね。


「そして……正直に言うとね」

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