真実(まこと)の愛

「この前、あの店できみが一緒にいた(ひと)って、きみの上司だよね?」

……守永さんのことかしら?

「きみと会う約束を、突然キャンセルした僕が言えた義理じゃないけどね」

松波の端整な顔が、ふにゃりと情けない顔になった。

「……速攻できみが違う男を連れてあの店にいたのには、ショックを受けたよ。しかも、あの彼だしね。だから、ぼおっとして頭が回らなくなって、なんにも言えなくなってしまった」

……はぁ⁉︎ 自分のことを棚に上げて、なにを言ってるの?

「まぁ……僕の気持ちはひとまず置いといて」

しかし、また元の引き締まったイケメンに戻る。

「あのとき、彼が結婚指輪をしてるように見えたんだけど、もしかして……妻帯者なのかな?」

……あんな一瞬すれ違っただけで、よく見えたわね?

「礼子が気がついたんだよ。あいつ、職業柄すぐ目が行くからね」

……あぁ、そうですか。なるほどねっ。

二人して、麻琴が妻帯者と不倫しているのだと思ったのだ。もしかしたら、「やさしい」二人は麻琴のことを「心配」してくれているのかもしれない。

……そんなの、大きなお世話だわ。

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