真実(まこと)の愛
いきなり、目の前の椅子に……しかも麻琴の隣に当然のように座ってきた見知らぬ男を見て、
「な、なんなんだ、あんた……?」
芝田も目を白黒させていた。
「申し遅れました」
そう言って、彼は内ポケットからカードケースを取り出した。英国王室御用達のホワイトハウスコックスのものである。
「……こういう者です」
そして、ケースからするりと名刺を一枚抜き出し、芝田へと渡す。
「……総合診療医、松波 恭介……えっ、日本人?しかも、お医者様ですか?」
名刺を見た芝田が目を見開く。
急に口調が丁寧になった。すっかり相手にマウントを獲られてしまったという証拠だ。
麻琴とはどこでどう知り合ったのかはさっぱりわからないが、広告業界に明るい芝田でも見たことがない顔だったから、てっきりCMや雑誌などの媒体のために海外から一時的に来日したモデルだとばかり思っていた。そのわりには流暢な日本語だな、とも。
「東京湾岸病院……あぁ、最近お台場にできた、最新式の設備が整った総合病院ですね?
総合診療科 診療部 部長……KO大学医学部医学科 非常勤講師……(株)ステーショナリーネット 非常勤産業医……あっ、それで……」
麻琴の勤務する会社を目にして、ようやく芝田は腑に落ちた顔になった。