真実(まこと)の愛

「……松波先生、わたし、いつからあなたの『婚約者』になりましたっけ?」

麻琴は松波を、ぎろり、と睨んだ。

オーダーしたエスプレッソを飲みながら、松波はしらじらしく「ん?」と麻琴を見る。

「そんな麻琴の怒った顔もかわいいけどね。
そういうかわいくないことを言ってると、逃した魚は大きい、って後悔することになるよ?」

祖母が淹れた本格的なミルクティの味を知る彼は、こういう場ではコーヒーにするようにしている。中途半端に淹れられた紅茶よりもエスプレッソマシーンのコーヒーの方が、よっぽど美味(おい)しく感じるからだ。

「それよりもさ……麻琴って妻帯者が好きなの?」

……はぁ⁉︎

先刻(さっき)の彼も左手薬指に指輪してたよね?
もしかして……既婚者でないと興味ないとか?」

「そんなわけ、ないじゃないですかっ!
奥さんのいる(ひと)なんて、絶対にイヤですっ‼︎」

麻琴は思わず叫んだ。

「それに、わたしだって、みんなから祝福されて結婚して、いつかは子どもを産んでしあわせになりたいって……だれよりも思ってるんですっ‼︎」

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