真実(まこと)の愛
「わたし、まだ仕事がありますので失礼します」
麻琴は立ち上がった。
こんなところで無駄な時間を消費してたら、また残業だ。
「あ、そうなの?もうすぐ定時だから、このまま直帰かと思って、これからきみとなにを食べに行こうかな?って考えてたんだけどね。
……じゃあ、僕も一緒に会社へ行くよ」
当然のように恭介も立ち上がる。
周囲のテーブルにいた老若問わず「女子」の視線が釣られて自然と上がる。彼はいつの間にか、注目の的になっていた。
しかし、麻琴はそんな周囲の視線に構っている場合ではない。
『一緒に会社へ』なんて、とんでもないという表情になった彼女に対して、
「僕ね、きみのこと『麻琴』って呼べるようになってうれしいんだけど、『マコッティ』って呼ぶのも、やっぱり捨てがたいんだよねぇ」
と、空恐ろしいことを告げた。
とびっきりの魅惑的な笑顔なのに、どうしてこんなに「真っ黒けっけ」に見えるのだろう?
「ねぇ、マコッティ。以前のように、また僕の出勤日の終業後には、一緒に食事へ行ってくれるよね?」
……その呼び名でわたしを呼ぶのは、
やーめーてーええぇ……っ!
麻琴が拒否れば、恭介が会社のみんなの前でそう呼ぶのは明白だ。
なので、首を縦方向に下げる以外に、麻琴に残された道はなかった。