真実(まこと)の愛
「それからさ、上林が『異動願』を取り下げてくれって頭を下げに来たよ。
……ま、おれの手元で留めていて人事にはまだ出してなかったけどな」
……えっ、上林くん、そんなにわたしの下で働くのがイヤだったのっ⁉︎
「つい先日異動したばかりなのに、古巣へ戻りたいなんて異動願を申請するってのはさ。
もちろん上司である麻琴が『リーダー失格』と評価されちまうってのもあるが、上林の方だって『堪え性のない人間』と見做されて、人事の心証が悪くなるんだぜ」
……まぁ、わたしが人事部でもそう思うわね。
「麻琴からはなかなか企画が上がってこないわ、上林とは剣呑な雰囲気になっていて岡本がおろおろしてるわ、宥めようとしても営業のおれは外回りでなかなかオフィスにいられないわで、このチームはどうなることかと心配したけどさ」
守永がテーブルに左手で頬杖をついて、ニヤリと笑う。その薬指には、今日もシンプルなプラチナリングが見える。
「なんとかおぼろげながら新商品の形が見えてきたからな。上林もようやくMD課独自の商品開発のおもしろさがわかってきたのか、
『名刺代わりの「代表作」をつくるまでは古巣に戻れないからがんばります』
って言いだしたぞ」
……まだまだ、やっとスタートラインに立ったか立たないか、って感じだけどね。