真実(まこと)の愛
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その日の夜、麻琴は守永と来て以来……ということは、恭介と久城 礼子の姿を見て以来、訪れてなかったViscumにやってきた。
「いらっしゃいませ、渡辺さま」
バーテンダーの杉山が恭しく頭を下げる。
「お一人でいらっしゃいますか?」
仕事を終えて軽く食事を済ませてやってきたこの時間は、あいにくカウンター席が埋まっていた。
なので、ほかにも二人バーテンダーがいるのだが彼らは杉山の指示で動いているため、今夜の杉山はカウンターの内側で、流れるようなさまではあるが、左右に忙しく動いているところだった。
「えぇ、そうなの。恭介さんがシンポジウムで福岡へ出張なのよ」
……松波先生ではなく『恭介さん』?
ほんの一瞬、杉山の片眉が上がったが、次の瞬間にはまたいつものポーカーフェイスに戻っていた。
「席が空いてなかったらいいのよ。また今度、恭介さんと一緒に来るわ」
今夜は恭介がいないからこそ、一人でボウモアでも呑みながら、守永の大阪行きの話をじっくりと考えたかったのだが。