真実(まこと)の愛

不意に、奥のテーブル席に目を遣った杉山の表情が、明らかに変わった。
彼にしてはめずらしく、困った顔をしてふるふると首を左右に振っている。

だが、どうやら押し切られたようで、仕方なく麻琴に告げる。

「……渡辺さま、もしよろしければ、あちらのお客様がぜひご一緒したいと、おっしゃっているのですが」

麻琴は奥のテーブル席を見た。
しかし、ここからは死角になっているのか、だれだかわからない。

だから、麻琴はだれだかわかる位置まで、ゆっくりとヒールを歩ませて行った。

そして、相手の顔を確認したとたん……固まった。

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