真実(まこと)の愛

「……以前、確かカナダのテレビかで観たんですけどね」

麻琴が、礼子の話を聞いてふと思い出したことを話す。

「精子バンクによって生まれた人が、同じ『父親』から生まれた『異母兄弟姉妹』を探すのですが、十人近く見つかったんですよ。
そのあとそれぞれに連絡を取って、同意した数人と一緒に、今度は『父親』を探しに行くんです。
ドラマではなくて、ドキュメンタリーなんですよ」

「えーっ、それでどうなったの?」

礼子が身を乗り出して訊く。

「見つかった彼らの『父親』は、大学生だったときにボランティア感覚で精子バンクに提供をしただけで、父親の自覚なんてカケラもなく『子どもたち』に会うことすら拒否しました。
彼はすでに結婚して妻子がいて、今の『家庭』に波風を立てたくないから勘弁してほしい、という手紙だけを送ってきました」

話をするうちに、麻琴の脳裏に細かなディテールが甦ってきた。

「『父親』は当時理学系の優秀な学生で、現在はその方面の教育関連の重職に就いているそうですが、精子バンクを経て生まれた『子どもたち』も学校の教師やIT関係・建築家などの職に就いていて、みんな学生時代から数学が好きで得意だったと言っていました。
そして、なんといっても……似てるんですよね、
母親は違っても、異母兄弟姉妹の顔立ちが」

「それって『父親』の面影よね?
……やっぱりDNAって、断ち切れるものじゃないってことなのねぇ」

「『子どもたち』はすべてを『冷静に』受け止めていましたね。もしかしたら、初めから覚悟して参加していたのかもしれません」

「きっと、そこに至るまでに『子どもたち』のそれぞれに、とてつもない葛藤があったはずよ」

「『子どもたち』は『父親』の対応は残念だけどその心情はわからなくもない、と言い、見ず知らずの男の精子で子どもを産んで、たった一人で育ててきたそれぞれの母親に対しては感謝を述べ、今回初めて会うことのできた『兄弟姉妹』には純粋に『会えてよかった』と互いに言い合っていました。ひとりっ子の人たちばかりですしね。
ちなみに『子どもたち』の中には、結婚して自然妊娠で子どもをもうけた人もいたんですよ」

「ふうん……もし、その親が精子バンクを通じて生まれなかったら、その子どもも生まれてこなかったかもしれないのね」

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