真実(まこと)の愛
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いつの間にか、麻琴と礼子が呑んでいた奥まったテーブル席に、壮年の男性の姿があった。
年相応のグレイヘアではあるが、ジムのパーソナルトレーナーのメニューによって鍛えられているすらりと高いその体躯には、細身のイタリアンスーツがよく似合っていた。
まるでシルクのような肌触りのスーツは、ナポリを本拠地とするキートンのものだ。
ぴったりと身体のラインに沿った縫製であるが、実はオーダーメイドではない。
何事も即断即決する彼には、何ヶ月も先にしか手に入らないものなんて、とても待ってはいられないのだ。
ただ「既製服」といえど「世界で一番高価な既製服」と呼ばれるその額は、デパートで誂えるオーダーメイドよりずっと値が張るが。
「さ、鮫島社長……⁉︎」
先刻まで艶っぽく輝いていた礼子の頬が、みるみるうちに色を失っていった。
突然、目の前に現れたのは、(株)Jubileeの代表取締役社長・鮫島 崇士だった。
「……お邪魔だったかな?
接待の会食を早々と切り上げてきたんだ。
私にも翔君から、ドイツ産の貴腐ワインが入荷したっていうラインが届いていたからね。礼子のスケジュールだと、今夜あたりこの店に来てるかな、と思って」