真実(まこと)の愛

「君……なかなか、興味深い話をしていたね」

麻琴に向かってそう言いながらニヤリと笑った鮫島は、革張りのソファに座る礼子の隣に腰を下ろした。デンマークの巨匠アルネ・ヤコブセンがデザインした名作スワンソファである。

なのに礼子の顔を見ると、気まずさのあまり急に座り心地が悪くなったようだ。

「は…はぁ……どうも、ありがとうございます」

対面で、同じくアルネ・ヤコブセンの代表作エッグチェアに座る麻琴は、そう応じるしかない。

「鮫島さま、いらっしゃいませ。
いつものをお持ちしましたが、ビールもご用意いたしましょうか?」

杉山が鮫島の前にセットしながら尋ねる。

「いや、私は接待でしこたま呑まされたから、今日はもうこれでいいよ。
……それより、きみたちはもう食事は済ませた?」

「わたしは先刻(さっき)、翔くんにつくってもらったのをいただいたわ」

鮫島に訊かれて礼子がそう答えると、

「サラダだけでいい、っておっしゃるので、上質なたんぱく質であれば大丈夫ですよ、と申し上げてイベリコ豚をつかったものにしました」

杉山が「告げ口」した。

「ダメじゃないか。私のパーソナルトレーナーからも、礼子はちょっとがんばりすぎてるので気をつけるように言われてるんだよ?」

「だって、この歳になると、代謝が悪くなってどうしても体重が増えちゃうんだもん」

礼子が、不貞腐(ふてくさ)れたちいさな女の子の顔になる。

すると、鮫島は感に耐えかねたように目を細めて礼子を引き寄せ、その艶やかなブルージュの髪にちゅっ、とキスをした。

そして、彼女を腕の中に収めたまま、

「君はもう済ませた?もし、まだなら……」

麻琴にも気を遣ってくれた。

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