真実(まこと)の愛
ヱビス プレミアムブラックで二人の誕生日を祝って乾杯したあとは、タンシチューはもちろん、カニクリームコロッケ・ベシャメルソースのグラタン・とろとろオニオンスープや自家製バケットなど、恭介の勧めるアラカルトを二人でシェアした。
たぶん先代の頃からずっと変わらない、恭介が幼い頃より親しんできた素朴だけど豊かな味を、麻琴もじゅうぶんすぎるほど堪能できた。
給仕のためにやってきたマダムが、真っ白なテーブルクロスの上にカトラリーを直に置く。客ごとにテーブルクロスを取り替えるこの店では、クロスは「お皿」なのだ。
このマダムが合間に恭介の「少年時代」をおもしろおかしく語ってくれたのも、麻琴にとってはこの上ない「ご馳走」だった。
「おばさん、ちょっと、その話を麻琴には……」
めずらしく歯切れ悪そうに言い、顔をしかめる恭介を見て、麻琴はひときわ笑った。
ビールのあとは、オーガニックで栽培されたカベルネ・ソーヴィニヨン種のチリ産赤ワインにしたのだが、瞬く間に二人で一本を空けてしまった。
アメリカやオーストラリアをはじめとする「ニューワールド」と呼ばれるワイン生産の新興国の一つであるチリは、二〇〇七年に日本と経済連携協定を結んで以降関税率が段階的に引き下げられ、二〇一九年にとうとうゼロパーセントになった。今では日本へ輸出量がフランス・イタリアなどの「オールドワールド」を抜いてトップとなっている。
また、コストパフォーマンスだけでなく、乾燥した気候のチリでは、ぶどうにとって大敵な害虫が少ないため、オーガニック栽培をしているワイナリーが多いのも魅力的だ。
さらに、最近では品質の向上も目覚ましい(つまり、格段に美味しくなった)「ニューワールド」の追い上げは、さすがの「オールドワールド」もうかうかしてはいられない。(なので、日本へのEU産のワインも二〇一九年に関税率ゼロパーセントになったのだが)
これらの知識は、ワインを呑みながら恭介が教えてくれた。