真実(まこと)の愛

「それから、何回か(バー)でそんな姿のきみを見かけるようになってね。
『僕だったら、きみにこんなふうに寂しい思いなんてさせないのに』『僕が(そば)にいて、きみの抱えるその(もろ)さを支えさせてほしい』
……って、だんだんと思うようになったんだ。
なのに、きみにはなかなか声すらかけられないんでいるんだぜ。そのくせ、きみの痛々しいその華奢な背中を、後ろからふんわりと包み込むように抱きしめたくなるんだ。
こんな気持ち……この歳になるまで知らなかったよ」

そして、ふっ、と笑って目を細める。

「……もちろん、きみを抱きしめたい気持ちは抑えたよ。いきなりそんなことをして、警察に通報されたくないからね?」

確かに、普通に呑んでるにもかかわらず、見ず知らずの(ひと)に、ふんわりでもなんでも、いきなり後ろから抱きしめられるのは、恐怖以外の何物でもない。

……だけど、『寂しそう』に見えたのはともかく、わたしが『(はかな)げ』とか『痛々しいその華奢な背中』とかって、ありえないんだけど。

そういう雰囲気なのは、魚住の妻の美咲だ。
(実は、中身はなかなかの「男前」なのだが)

麻琴は女性では長身の部類だし、そもそも骨太な体型なので、女優の藤◯◯◯香のように痩せてもあまり痩せたように見えないのだ。

そう思って首を(かし)げる麻琴に、恭介は灰緑色の瞳を哀しげに(かげ)らせた。

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