真実(まこと)の愛

「あ、改めまして……麻琴です。よろしくお願いします」

麻琴は丁寧にお辞儀をした。

「こちらこそ、よろしくお願いしますよ、麻琴さん」

店主(オーナーシェフ)がニヤリと笑う。

「……それと、恭介君のことも末長くね」

「これから、ちょくちょくお店にいらしてね、麻琴さん」

マダムが穏やかな笑みで麻琴を見つめる。

「恭介くんはね、もう高校生くらいのときから、
『おじさん、おばさん、僕がこの店に女の子を連れてきたときはプロポーズするときだからね』
って、(かたく)なに言ってたのよ。
もちろん……恭介くんが女性をお連れになったのは、あなたが初めてよ」

「えっ、じゃあ、久城さんもいらしたことないんですか?」

麻琴はびっくりして恭介に訊いた。

「きみ以外の人と結婚しようと思ったことなんて、僕には一度もないよ」

恭介が麻琴とつないだ手にきゅっ、と力を込めた。

「でも、麻琴さん……大丈夫?
恭介くんってね、思い込んだらしつこくって、昔から『欲しい』と思ったものは、歳の離れた妹の麗華ちゃんを泣かしてでも絶対にモノにしてたのよ」

マダムが心配そうな顔になる。

「……おばさん、何歳(いくつ)のときの話だよ?」

恭介が困った顔で苦笑する。

「恭介君、強引なことはしてないだろうね?」

店主が恭介をじろり、と見る。
さすが、恭介を子どもの頃から見守ってきただけあって、お見通しのようだ。

「まぁ……多少は『実力行使』したことは否めないけどね」

しかし、恭介はどこ吹く風、だ。

「麻琴さん……こういう人だから、諦めて?」

マダムが気の毒そうに麻琴を見つめる。


……仕方ない。どう足掻(あが)いたって、結局は、捕まっちゃったんだもの。

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