真実(まこと)の愛

麻琴は、身長一六七センチのメリハリボディに美しい顔立ちで、街を歩くと女優やモデルと見紛う華やかさである。実際、十代の頃は芸能関係の事務所からしつこくスカウトされていた。

当然、学生時代には周囲の男たちから「高嶺のお姫さま」として崇め奉られてきた。

麻琴は新卒で入社した直後、大阪支社の配属となった。そのとき、教育係についたのが魚住だった。

初めて、自分から向かっていった恋だった。

見返りがないかもしれないのに、バレンタインの本命チョコもクリスマスプレゼントも誕生日プレゼントもあげた。
そして、勇気を振り絞って「お礼をください」と催促し、何度かデートもしてもらった。

魚住は、麻琴が生まれて初めて、自分から「好きです」と告げた相手だった。

だけど、結局、彼からは「ありがとう」以上の言葉をもらうことができなかった。

それどころか、いきなり現れた(ひと)に、あっという間にかっ攫われてしまった。

しかも、突然再会したという魚住の小学校の同級生だったその相手は、当時人妻だった。

その後、魚住は相手の夫に直談判して離婚させ、自分の妻にした。今ではかわいい三歳の男の子にも恵まれている。


麻琴は……「完敗」した。

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