真実(まこと)の愛
「……うちの『家業』の方の話なんだけど。
まだ世間に発表してないから、麻琴さんにだからこそ話すんだよ?」
……まさか、この国の株価を左右しそうな話じゃないでしょうね⁉︎
「家」があの家だけに、麻琴は空恐ろしくなった。身に余る情報などいらない。
「ある同業他社と……合併することになった」
……あぁ、やっぱり、日経平均株価に関わる大それた話じゃないのっ!
「でも、心配しないでほしいんだ。
うちの方からは……僕の妹が差し出されるから。
なんでも、向こうの『御曹司』と政略結婚させるらしい」
……いやいやいや。それってつまり、妹さんが『人身御供』にされるってことでしょう⁉︎
「松波先生の妹さんって……REICAさんでしたよね?」
松波の妹の松波 麗華はクォーターである華やかな美貌を生かして、雑誌などのモデルをやっていた。
「そうだよ……あいつももう三十だというのに、いつまでも芸能界みたいなところでふらふらしてるのもね」
松波が「兄の顔」になって肩を竦める。
以前、松波が『両親が二人目がほしくてやっと生まれた妹で、歳が離れているため周囲から甘やかされて育ったものだから』と言っていたのを麻琴は思い出した。
……だからと言って、いきなり「家」のために、
「駒」にされるのもどうよ?
麻琴は、やっぱりそのような「感覚」のおうちは勘弁してほしいな、としみじみ思った。
所詮、戦後に成り上がった自分の家とは「格」が違う本物の「名家」なのだ、ということが重くのしかかる。
「麻琴さん……誤解しないでくれよ。
大事な妹を差し出すんだよ?相手の男をちゃんと見込んだ上で言ってるんだ」
麻琴の「気配」をなんとなく察したのか、松波があわてて言う。
「『御曹司』と言ってもね、彼はその卓越したアイディアと実行力から、『業界の風雲児』って言われてるそうだ。だから、それを活かした経営手腕で、僕なんかよりもずっと、これからの会社を盛り上げてくれると信じている。
従業員の生活がかかっているんだ。しっかりと経営能力のある有能な者が上に立つべきなんだよ。
まぁ……いつまでも同族企業でいるのもどうかと思わないでもないけどね」