真実(まこと)の愛
「…………くくっ」
カウンターの向こうの杉山が、とうとう耐えきれず、声を漏らした。
「翔?」
松波がぎろり、と睨む。
「いや……失礼しました。
ちょっと『ななみん』さん級のおもしろさだったので」
杉山は腹にぐっと力を込めて、なんとか態勢を立て直した。
「『ななみん』って?」
麻琴が尋ねると、
「僕の学生時代からの親友に田中っていうヤツがいて、今は金融庁のキャリア官僚なんだけど、そいつの奥さんが『七海』さんっていってね。
……いろんな意味で凄まじい人なんだよ」
そう答えた松波が、その「凄まじさ」の一つを思い出したのか、肩をぷるぷると震わせ始めた。
「ダメですよ、恭介さん、思い出しちゃ。
笑いが止まらなくなりますって!」
杉山が松波を窘めるが、そういう彼もなにか一つ「凄まじさ」を思い出してしまったのか、腹の力が緩んでしまい、また笑いが込み上げてきた。
「あの……その人、もしかして……
旧姓は『水野 』っていいませんか?」
麻琴はできれば別人であってほしいと心の底から願った。
「もし、そうであれば……わたしの従姉妹です」