真実(まこと)の愛
「……おい、翔」
「やれやれ」と思いながらバカラのグラスを磨いている杉山を、松波がじろりと見る。
「これで僕に一つ『貸し』をつくった、なんて思うなよ?」
杉山が「えーっ⁉︎」という顔になる。
「ふん、他人の心配する前に、自分はどうだって言ってんのさ。
……あ、そうだ。今度は僕が『あの子』との仲を取り持ってやろうか?」
杉山が「……は?」という顔になる。
「えっ、杉山くん、好きな子がいるの?」
麻琴がカウンターに身を乗り出す。
自身の祖父に憧れて、まだ十代の頃からこの世界に入っている杉山が、どんな女性に心を魅かれるのか知りたくなった。
「それがね、ちょっと厄介な相手なんだよなぁ。
たとえ、本人を振り向かせることができたとしても、背後に控える父親代わりの『兄貴』がねぇ」
松波がカウンターに片肘をついて、一つため息を吐く。
「実は、そいつが僕のもう一人の親友で、今は企業の法務部で責任者をやってる弁護士なんだけどさ。麻琴さんにはそのうち、紹介するよ。
……あ、その前に、きみも、翔のために『協力』してくれる?」
松波のムチャ振りに、杉山が「ははは…」と力なく笑う。
「もちろん、協力するわ!」
麻琴は快く引き受けた。
……どうも、とんでもないラスボスがいるお相手みたいね。