真実(まこと)の愛

「……見事に、煮詰まってるなぁ」

麻琴のautoCADを覗き込んで、守永が唸った。

……課長、近いったら!セクハラよっ!

麻琴はデスクチェアのキャスターを体重移動によって横へ転がして、身体(からだ)をずらす。

「一発目は渡辺さんのプランで行く、って決定事項だったですよね?」

遠くから上林の声が飛んできた。

「だったら、せめてコンセプトくらい出してもらわないと、こっちも動きようがないんっすけどね」

「ちょ、ちょっと、上林さん……」

紗英があわてて止めようとする。

「なんだよ、岡本。君だって、商品のコンセプトすらないのに、販促のプランなんか練れないだろ?」

確かに「正論」なので、麻琴はぐうの音も出ない。

「まぁまぁ、落ち着け、上林。
まだ、このMD課自体が発足したばかりで、どのチームも手探り状態なんだ。プレゼン会議までまだ時間もあるし、そう焦る必要はないぞ」

守永がそう言うと、上林もしぶしぶ矛を収めた。

……ううっ、やりづらい。
これでは、だれがチームリーダーかわからないわ。

そもそも、守永はサブリーダーの前に「課長」であった。やはり、経験に裏打ちされた「貫禄」が違う。


……それでも、このチームのリーダーは自分だ。

< 76 / 296 >

この作品をシェア

pagetop