真実(まこと)の愛

「この前は、智史くんからジャイアントスイング(人間風車)でぐるんぐるん振り回されてソファに向かって思いっきり投げ飛ばされたあと、肩に担がれアルゼンチンバックブリーカー(人間マフラー)されて、最後はボディースラムを喰らってラグに向けて真っ逆さまに落とされてたなー。大和すっごく大興奮してケラケラ笑ってたよー」

母親である美咲もケラケラ笑っていた。

……えっ、それって大丈夫なの?
児童相談所に通報しなくてもいいレベル?

「黙っていたら処女に見える」と言われる風貌の美咲がプロレス技に詳しいのは、夫の影響である。

彼らが出逢った小学生の頃、魚住が毎日一方的に自分の興味のあることをしゃべりまくっていて、美咲はその相槌を打つために「猛勉強」した。

プロレス以外には、魚住が好むプロ野球とJリーグは必須だった。さらに、魚住がスポーツ以外にも興味を持つ日が来るかもしれないと思って、音楽・文学・映画・政治・経済など、手当たり次第に掃除機のように「吸収」していった。

魚住は当時からモテまくっていたので、恋敵(ライバル)たちに差をつけるためにも、美咲はがんばった。

実際には、魚住が一日中でもずーっとしゃべっていたいと思える相手は、男子の友達も含めて美咲以外にはいなかったのだが……

そして、おめでたい魚住は今でも「美咲とどんな話題でも奇跡的に話が合うのは『運命の相手』だからだ」と固く信じている。


「……だからね、美咲さんちに遊びに行って帰るとき、いつも大和くんが智くんにへばりついて大号泣するから、引き剥がすのがたいへんなのよー」

稍がそう力説すると、箸で(つま)み上げたコラーゲンたっぷりの鶏の手羽先がふるふる揺れた。

仕事がやりにくくなるから、という理由で「社内秘」なのだが、実は魚住と青山は従兄弟(いとこ)同士なのだ。

青山を(株)ステーショナリーネットに転職するように誘ったのも魚住だった。


……わたしはややちゃんに教えてもらうまで、まったく知らなかったけどね。

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