10歳年下の部下を溺愛しすぎて困ってます
「では、社内案内しますね。」

「よろしくお願い致します。」

間近で聞く彼の声は低すぎず、高すぎず聞き取りやすかった。

呼吸をこっそり整えながら、私は彼の先を歩き出す。

この位置は良いかも。

彼の顔を見なくて済む。

「狭い会社だから、そんなに案内するところもないくらいなんだけどね。多分すぐ覚えちゃうと思うし。」

話しながら、内心彼との接し方を考えていた私。

多分かなり年下だろうし、顔が好みというだけで優しくするのもセクハラっぽい。

好意を持たれていると彼に思われて、簡単な上司だとナメられるのも嫌だ。

となると…彼と接する方法は、私にはひとつしか浮かばなかった。

とりあえず他の人より距離をおいて、冷たいくらいでちょうどよい。

顔は良い彼のことだ。

私から冷たくされても、周りの皆が優しくしてくれてちょうどよいに違いない。

やっと方向性の定まった私は、社内案内を終えてようやく目を合わせて彼の顔を見た。
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