クリスマス・イルミネーション
11月13日


「えー? コンパー?」

武藤和希は面倒そうに言った。

『頼むよ』

兄の浩一が電話越しに頭を下げる。

『メンツの一人がインフルエンザとか言ってよ。急に来れなくなったんだよ。一人少ないのも相手に悪いだろ』
「俺には関係ねぇし」
『そう言うなよ。兄貴を助けると思って! お前、ウケいいしさ!』
「ウケって」
『イケメン、長身、なんたって若い! なっ!?』
「若いのは当たり前だ、まだ高校生だぞ」
『だいじょぶ、だいじょぶ。お前は十分おっさんに見える!』

言われて和希は無言でスマホの画面を睨み付けた。

(言い方……)

それでも、会費は兄が払うと言うので、和希は渋々出かける事にした。

寝転がっていたベッドから勢いを付けて体を起こす。

まだ高校の制服のままだ。それで居酒屋という訳にはいかない。
ジーンズと黒いTシャツに着替え、上から赤系のチェックのワイシャツを羽織った。

そして兄の部屋から、ダブルのジャケットを勝手に借り受ける。

大人っぽさを出そうと髪をワックスで少しで立たせ、フレームの太い伊達眼鏡をかけた。

元より普段から大人っぽく、兄と六歳違いには見られない、なんとか20歳くらいには誤魔化せるか?





「えー、コンパー?」

保坂愛由美は困ったように言った。

『お願いよ』

友人の中村尋子は、電話越しに言う。

『メンバーの一人が、元カレとヨリを戻したからとか言って、ドタキャンしたのよー! そんな事言えないじゃん! 暇そうな人、いないかと思って!』
「悪かったわね、暇そうで。意外と忙しいの、切るわよ」
『あーごめん! ごめん! 彼氏いなそうな人って……!』
「あのね」
『お願い! 今度埋め合わせするから!』
「もうー」

お金は出すから、と言う言葉に、夕飯になるならいいかと愛由美は了承した。

テストの丸つけは家でやろうと鞄にしまう。

職場のロッカー室で化粧をやり直し、身支度を整えた。

「あー……地味だな、仕方ないか」

淡いピンクのパンツスーツに身を包んだ体を見下ろす。
下のブラウスすらシンプルなデザインだ。

少しは色気を出そうと、後ろで一つにまとめていた髪を解き、ドライヤーとブラシで内巻きに整えた。
眼鏡を外し、ケースにしまって鞄に入れ、その鞄を掴み、職場である高校を出る。
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