クリスマス・イルミネーション
11月18日
日曜日は気持ちよく晴れ渡った。
なのに。愛由美の顔は暗く沈んでいる。
眼鏡はかけていないが、今日も遠くから『晴真』こと和希に気付いた。
「おはよ。どうしたの? 元気ない?」
「だって」
「今日は眼鏡じゃないんだ?」
「あ、うん……普段はコンタクトなの、眼鏡は学校がある平日だけで」
服装も、コートの下はスカートだと判る。
タイツを履き、今までは見たことのない厚底のストラップパンプスを履いていた。
「可愛い」
和希は目を細めて言った。
愛由美はすぐに頬を赤らめる。
「和希の件だけど」
その名に、愛由美はさっと顔色を変えた。
「なんか言われた?」
わざと優しく聞いた。
愛由美は首が取れなそうなほど、頭を横にブンブンと振る。
「いつも通りだけど……別にあなたとも何があるわけじゃないんだから、気にしなくてもいいんだけど、でもやっぱり、何か後ろめたくて」
「ご飯食べに行ったくらいで大袈裟な」
「そ、なんだけどっ!」
赤い顔で、視線を反らして、口ごもりながら愛由美は言う。
そんな愛由美に、和希は心の奥に疼くものを感じていた。
「俺が愛由美のこと聞いたから、気になったんじゃないの? もう俺からは何も言わないよ。一緒に住んでる訳じゃないから喋る機会もないし」
「でも……」
「和希のせいで逢えなくなるのは、不本意だ」
「え……っ」
「俺は純粋に愛由美が気になってるのに」
真摯に見えるその物言いに、愛由美は心が揺らぐ。
(そ、そうだよね。これが浩一さんなら武藤くんも本当に嫌がるだろうけど、晴真なら……べ、別にお友達だし!)
愛由美が、うんと頷くのを、和希は見た。
「ごめん、私が考えすぎだったかも」
「良かった」
(単純だな、今度学校でいじめてやる)
「じゃあ、今日はデートできるな」
「デートじゃないよ」
愛由美は明るく微笑む。
「そんなに色っぽいのはなし。だから気になるんだもん」
「え……」
「遊びに行こ。最近、尋子も彼氏できて遊んでくれなくて」
言われて、和希は眉間に皺を寄せる。
(女友達代わりかよ!)
愛由美はニコニコと言葉を続ける。
「どこ行くか決めてるの?」
「いや、何処でも……」
「じゃあ、動物園!」
愛由美の頭の中には、野毛山動物園が浮かんでいた。
和希は溜息を吐いた。
「小学生じゃあるまいし……」
「え、いや? じゃあ、水族館」
今度は吹き出した。
「そういうとこが好きなんだ?」
「うん。植物園も好き」
「いや、せめて水族館で……」
自分も楽しめそうなのは、水族館の方だと思えた。
愛由美は嬉しそうに破顔する。
「じゃあ行こ」