クリスマス・イルミネーション
*
「シーパラ!」
大きな四角錐の屋根を見て、愛由美は嬉しそうな声を上げた。
横浜八景島シーパラダイスに着いた時には、もうお昼に近かった。
先にご飯を済ませ、水族館へ向かう。
お金は「いいの、いいの」と愛由美が全て支払っていた。
薄暗い建物に入って走り出そうとする愛由美を、
「待て」
和希は腕を引いて止めた。
「落ち着け、魚は逃げない」
「あ、ごめん、久し振りだから」
愛由美はキラキラした目で笑う。
「子供か」
「ごめん、ごめん」
笑顔のまま、愛由美の方から手を繋いだ。
愛由美はひとつの水槽での滞在時間が長い。
(これなら飛び出すのをほっといても大丈夫だったな)
水槽に釘付けの横顔を見て、溜息を吐く。
(なあにがそんなにいいんだか)
視線に気付いたのか、愛由美が不意に和希を見た。
にこっと可憐に笑った。
思わず和希は視線を反らす。
(学校でもそれくらい笑えよ。あ、でも……)
それはプライベートでしか見る事が無いのだと、和希は判っていた。
大水槽でショーがあると放送がかかる。
「観たい! いい?」
愛由美は上目遣いに和希を見た。
「なんで今更、許可制?」
「だって、晴真、つまらなそうなんだもん」
「つまらない事はないけど、よくまあ、そんだけじっくり見られるなって感心してるだけ」
「だって、魚泳いでるんだよ!?」
「当たり前だし。じっとしてる魚だって、じっくり見てたし」
「だって」
「はいはい、早く行かないと、いい場所なくなるよ」
今度は和希が手を引いて歩き出す。
ショーが始まると、愛由美は終始「わあ、わあ」と歓声を上げていた。
二人は階段の片隅に並んで座って、水槽を見上げていた。
鰯の大群が音楽に合わせて右往左往する、光が当たるたびにキラキラして綺麗だった。
和希は膝に頬杖をついて見ていた。
魚のショーもいいが、ただでさえ童顔の愛由美が童心に帰ってワクワクして見ているのが妙な気分にさせた。
「凄いねっ」
愛由美は興奮気味に言う。
「前来た時より、パワーアップしてる!」
「前は男と来たの?」
「ううん、尋子と」
「やっぱり、処女……」
「違う! こんなとこで大きな声で言わないで!」
顔を真っ赤にして怒る愛由美に、和希は笑って返す。
「あ、イルカのショーが始まるよ!」
愛由美が腕時計を確認して言った。
「はいはい、行きますよー」
イルカのショーが行われるのは、屋根はあるが屋外だ。
時折吹く海風は冷たい。
シートは電熱線が入っていて温かいが、体は冷える。
和希は暖房代わりに愛由美を抱き寄せた、だが愛由美はイルカに夢中で何も言わない。
「ねえ、ジンベイザメ、大きいねっ」
イルカの水槽に時折入ってくるジンベイザメに感動していた。
「そうだな」
(むしろ俺は、お前の鈍感さに感動だけどな)
「わっ、ジンベイザメ居るのに、イルカがジャンプした! 当たらないのかな?」
「大丈夫みたいだな」
(サメだって逃げるっての)
「わあ、凄い凄ーい!」
三頭いっぺんにジャンプしたのを見て、愛由美は手を叩いて喜んだ、和希は本気で吹き出した。
「なによう」
愛由美はとびきり不機嫌に聞く。
「いや……幼稚園児より反応がいいと思って」
「だって、可愛いんだもん」
愛由美が唇を尖らせて言うの見て、和希は微笑んだ。
「愛由美の方が可愛いよ」
「……私は、ジャンプしないけど」
「なんでイルカと張るの」
「だって……」
(思わず誤魔化して言っちゃったけど……そんな顔で可愛いなんて言われたら、誤解するよっ)
愛由美はふいっと視線を外した。
「何?」
言葉を繋げない愛由美に、和希は催促する。
愛由美はそこで初めて、腰を抱く和希の手に気付いた。
「いつのまに!」
軽く和希の手を叩く。
「ちっ、気付いたか」
和希は笑って、素直に手を離す。
「シーパラ!」
大きな四角錐の屋根を見て、愛由美は嬉しそうな声を上げた。
横浜八景島シーパラダイスに着いた時には、もうお昼に近かった。
先にご飯を済ませ、水族館へ向かう。
お金は「いいの、いいの」と愛由美が全て支払っていた。
薄暗い建物に入って走り出そうとする愛由美を、
「待て」
和希は腕を引いて止めた。
「落ち着け、魚は逃げない」
「あ、ごめん、久し振りだから」
愛由美はキラキラした目で笑う。
「子供か」
「ごめん、ごめん」
笑顔のまま、愛由美の方から手を繋いだ。
愛由美はひとつの水槽での滞在時間が長い。
(これなら飛び出すのをほっといても大丈夫だったな)
水槽に釘付けの横顔を見て、溜息を吐く。
(なあにがそんなにいいんだか)
視線に気付いたのか、愛由美が不意に和希を見た。
にこっと可憐に笑った。
思わず和希は視線を反らす。
(学校でもそれくらい笑えよ。あ、でも……)
それはプライベートでしか見る事が無いのだと、和希は判っていた。
大水槽でショーがあると放送がかかる。
「観たい! いい?」
愛由美は上目遣いに和希を見た。
「なんで今更、許可制?」
「だって、晴真、つまらなそうなんだもん」
「つまらない事はないけど、よくまあ、そんだけじっくり見られるなって感心してるだけ」
「だって、魚泳いでるんだよ!?」
「当たり前だし。じっとしてる魚だって、じっくり見てたし」
「だって」
「はいはい、早く行かないと、いい場所なくなるよ」
今度は和希が手を引いて歩き出す。
ショーが始まると、愛由美は終始「わあ、わあ」と歓声を上げていた。
二人は階段の片隅に並んで座って、水槽を見上げていた。
鰯の大群が音楽に合わせて右往左往する、光が当たるたびにキラキラして綺麗だった。
和希は膝に頬杖をついて見ていた。
魚のショーもいいが、ただでさえ童顔の愛由美が童心に帰ってワクワクして見ているのが妙な気分にさせた。
「凄いねっ」
愛由美は興奮気味に言う。
「前来た時より、パワーアップしてる!」
「前は男と来たの?」
「ううん、尋子と」
「やっぱり、処女……」
「違う! こんなとこで大きな声で言わないで!」
顔を真っ赤にして怒る愛由美に、和希は笑って返す。
「あ、イルカのショーが始まるよ!」
愛由美が腕時計を確認して言った。
「はいはい、行きますよー」
イルカのショーが行われるのは、屋根はあるが屋外だ。
時折吹く海風は冷たい。
シートは電熱線が入っていて温かいが、体は冷える。
和希は暖房代わりに愛由美を抱き寄せた、だが愛由美はイルカに夢中で何も言わない。
「ねえ、ジンベイザメ、大きいねっ」
イルカの水槽に時折入ってくるジンベイザメに感動していた。
「そうだな」
(むしろ俺は、お前の鈍感さに感動だけどな)
「わっ、ジンベイザメ居るのに、イルカがジャンプした! 当たらないのかな?」
「大丈夫みたいだな」
(サメだって逃げるっての)
「わあ、凄い凄ーい!」
三頭いっぺんにジャンプしたのを見て、愛由美は手を叩いて喜んだ、和希は本気で吹き出した。
「なによう」
愛由美はとびきり不機嫌に聞く。
「いや……幼稚園児より反応がいいと思って」
「だって、可愛いんだもん」
愛由美が唇を尖らせて言うの見て、和希は微笑んだ。
「愛由美の方が可愛いよ」
「……私は、ジャンプしないけど」
「なんでイルカと張るの」
「だって……」
(思わず誤魔化して言っちゃったけど……そんな顔で可愛いなんて言われたら、誤解するよっ)
愛由美はふいっと視線を外した。
「何?」
言葉を繋げない愛由美に、和希は催促する。
愛由美はそこで初めて、腰を抱く和希の手に気付いた。
「いつのまに!」
軽く和希の手を叩く。
「ちっ、気付いたか」
和希は笑って、素直に手を離す。