クリスマス・イルミネーション
ショーが終わり、室内の展示に戻ると、愛由美はペンギンの展示に気付いた。

「ペンギン!」

ハートマークが付きそうな勢いで、その前に張り付く。
左右に泳いで過ぎるペンギンに釘付けだ。

初めは隣に立って一緒に見ていた和希だったが、10分も過ぎると飽きてしまう。

愛由美は動く気配がない。

(やれやれ)

和希は諦めて近くにあるベンチに腰掛けた。

(いつもなら行くぞって引っ張るとこだけどな)

何故かそうしようと言う気にはならなかった。
純粋に喜んでいる愛由美に悪いような気がしたからだ。

愛由美が飽きるのを待ってる間に、メッセージの着信がある。
交際中の水野だった。

『今どこ? 会える?』

そんなメッセージがいくつも並んでいた。
和希は溜息を吐いた、それに応える気持ちにはなれずにいる。
今、この時を、邪魔をするなと──。

(ちゃんと別れろって、言われたな)

二股と言われる状況でも和希は構わないが、それも相手による。
富樫の言うように、水野はそれを許すような女ではないと思う。

ただ別れを切り出せば、面倒なく別れられるだろうと思った。

(まあそれも会って、だな)

『外出中』

言い訳めいた事は書かない。
一言だけ書いて送信すると、電源をオフにした。

30分経っても、愛由美はペンギンの前から動かない。

ウキウキした顔で、ずっとペンギンの動きを追っている。
和希は溜息を吐いて立ち上がった。

「おい」

声を掛けたが、愛由美は気付かない、背後から愛由美を抱き締めた。

「きゃ……っ」
「いい加減にしろ」

顎で、愛由美の頭をグリグリ押す。

「きゃあ、痛い、痛いっ! ごめんなさいっ!」

諭されない事をいいことに、ずっと見入っていた自覚はある、それを謝ったが。

「いい加減、俺を見ろ」
「……えっ?」

意外な言葉に、愛由美は上目遣いに背後から見下ろす和希を見上げた。

「ペンギン如きに愛由美を占領されるとは思わなかった。もういいだろ、人間に関心戻せ」
「え、あ、うん……」
(なんだ、人間……か)

跳ね上がった鼓動を、愛由美は懸命に抑える。
それからの水槽は、五分も止まると和希が手を引いて歩き出してしまう。

(さすがに怒らせたかな……)

愛由美は、今度は一人で来ようと小さな決意を固めた。
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