クリスマス・イルミネーション
11月25日
日曜日、和希は愛由美のアパートまで車で行く。
免許は夏休みに取った、休日には家族を乗せて出かける事も多い。
駅まで行く、と言う愛由美を説き伏せて場所を聞き出した。
大きな通りから一本入った、3階建ての鉄筋のアパートだった。
和希がシエンタで乗り付けると、愛由美はアパートの前で待っていた。
嬉しそうな笑みが眩しかった。
「誘ってくれてありがとう」
助手席に乗り込むと、愛由美は弾む声で言った。
「水族館に誘ったわけじゃないからね」
和希は少し嫌味を込めて言う。
「えっ、そうなの!?」
愛由美は大袈裟に驚いてみせる。
「俺の目的は紅葉」
「あ、そうかあ」
どうやら本気で水族館が目当てだったらしい。
「紅葉か、ちょうどシーズンだね」
少し落ち込む愛由美の頭を、和希は手を置くように撫でた。
「そんなにがっかりされたら、紅葉は後回しにしたくなるだろ」
愛由美は小さな声で「え」と言って、和希を見る。
和希は太い縁の眼鏡の奥の瞳を細めて笑った。
「でも、連絡した時が紅葉もピークだったみたいだし、もしかしたらあんまり綺麗じゃないかも知れないから、水族館メインでもいいけどな」
言われて愛由美は、ほんのり頬を染めた。僅かに滲ませてくれる優しさがなんとも心地よく感じた。
「できればドライブを楽しみたいけど、愛由美は水族館に早く行きたいだろ?」
「え、いいよ、行きたいとこあるなら……」
「いや、海沿いを行こうかと思ったけど、それは帰り道で」
車を横浜町田インターに向けて走らせた。高速を使い一気に箱根に近付く。
それでも箱根に着いた頃にはお昼に近かった。ホテルのレストランで食事を済ませ、まずは愛由美の目的の水族館へ向かう。
(夕方まではここかもなー)
和希は半ば諦め気味だ。
(まあ紅葉も、見たらおしまいか)
浮き足立つ愛由美の横顔を見て、和希も思わず笑顔になっていた。
(学校でもこれくらい笑えばいいのにな)
思ってすぐにそれを否定する。脳裏に富樫達の顔が浮かんだ。
『すんげー可愛い!』
興奮気味に言っていた言葉を思い出す。
(それを知ってるのは、俺だけだ)
*
二人は腕を組んで館内を巡る。
愛由美は今日も変わらず笑顔を輝かせて水槽を覗いている、和希は大した興味もないがそれに付き合う。
「可愛い」
ハコフグが懸命に泳いでいた。
「そうだな」
賛同した和希を、愛由美は意外そうな顔で見た。
「……なんだよ?」
「見てないと思った」
「見てるよ、お前が見てるものは」
何気なく言われて、愛由美は呆気に取られる。
思わず動きを止めた愛由美に和希はツッコミも入れずに、次の水槽へ移動を促す。