クリスマス・イルミネーション
*
「マジ勘弁してくれよな」
和希が呟く。
「恩に着るって。今度欲しいもん買ってやるから」
見れば出席者は皆社会人、どう見ても自分だけ浮いている。
楽しい飲み会にはならなそうだ、急に帰りたくなってきた。
「じゃあ、最新のiPhone買ってくれ」
「ふざけんなよ、高価過ぎだ」
「じゃ、俺はこれで……」
「待て待て! とりあえず後日考えよう!」
たくー、と和希が呟いた時。
「お待たせ」
間違いなく、聞き覚えのある声がした。
和希が恐る恐るその姿を確認すると、
「げっ」
呻き声を、浩一は聞き逃さなかった。
「どうした?」
和希は浩一の腕を掴み引き寄せ、くるりと皆に背を向ける。
「マジ、ヤバイって。あの人、俺の学校の英語の先生だ」
「マジか!」
「ねえー? お待たせ、全員揃ったわよー」
尋子に声を掛けかられて、浩一は頬を引きつらせながら振り返った。
「あ、はい! じゃあ 店に移動しましょうか!」
和希が「おい」と腕を引く。
「帰るぞ」
「まあまあ、とりあえず乾杯だけでも」
「無理だって!」
「現時点で気付いてなさそうじゃん?」
「ええっ?」
愛由美を見ると、尋子と楽しげに話していて、確かに和希には気付いていない。
いつもしている眼鏡をしていないし、和希も制服ではないからだろうか?
結局、言われるがまま、近くに居酒屋に入ってしまう。
*
ビールは10杯、人数分だ。
「せめてお茶……」
和希にだって、常識はある。
「まあまあ」
対して浩一はその辺りの禁忌は低い、飲んでも構わないと思っている。
武藤兄弟は並んで座り、コソコソしていた。
「もう、みんな若いじゃんー」
愛由美は愚痴った。
幹事の尋子は、今年の新入社員を三人連れてきていた。
愛由美と尋子は大学の同級生、今年で28歳だ。
「そうなの、後輩にセッティング頼まれてさ。取り引き先の武藤君に頼んで集めてもらったのよ。ね? 武藤君?」
「「はい?」」
和希と浩一が同時に返事をした。
やば……っ、と、和希は慌てて顔を伏せる。
「えっ、あ、そうなんすよ!」
浩一が慌てて言う。
「こっちも飢えたのが多くて!」
浩一は24歳で、やはり新入社員を誘って来ている。
「武藤さんって」
愛由美は小首を傾げて聞いた、和希がぴくりと肩を震わせる。
「弟さん、います?」
「「えっ!?」」
またもや和希と浩一の声が重なる。
「あ、いや、その」
口籠る浩一を脚を、和希は容赦ない力でつねった。
「あいっ……!」
「はい、もう一人、俺の下に。今高校生です」
言われて愛由美は破顔した。
「あー、やっぱりー。お二人とも声がよく似てます、武藤和希くんに」
言われて武藤兄弟は心臓がバクバクしだしたが、顔には出さないように努める。
「え、と。和希を、知ってるんですか?」
和希はわざと聞いてみた、浩一は和希の脇腹を突いて牽制したが、和希は愛由美を見て微笑んでいた。
「教え子です。私、横浜第二高校で先生してるんです」
(そんなことは知ってるよ)
和希は心の中で思う。
「へえ、先生なんだ、見えませんね」
「そうなんです、どうも甘く見えるみたいで。せめての抵抗で、学校では眼鏡掛けてできる風に見せてます」
ジョッキを両手で持ち微笑む愛由美は、やはり学校で見る姿とは大違いだった。
「目……悪いんですか?」
「ええ。今もそちらには男性がいるくらいしか判りません、なんて、そこまでではないですけど」
「そうなんだ」
和希は微笑む。
(だから俺って判らないのか)
少し安心した。
「こんなとこでお兄さん達と飲んでるなんてばれたら、嫌な顔されちゃいますね」
愛由美は笑顔のまま続けた。
「内緒にしておきますよ」
和希も笑って答える、口の端が妙に釣りあがっている気がした。
「私も内緒にしておきます」
口元に手を当てて微笑む、そんな顔は学校では見た事がなかった。
「マジ勘弁してくれよな」
和希が呟く。
「恩に着るって。今度欲しいもん買ってやるから」
見れば出席者は皆社会人、どう見ても自分だけ浮いている。
楽しい飲み会にはならなそうだ、急に帰りたくなってきた。
「じゃあ、最新のiPhone買ってくれ」
「ふざけんなよ、高価過ぎだ」
「じゃ、俺はこれで……」
「待て待て! とりあえず後日考えよう!」
たくー、と和希が呟いた時。
「お待たせ」
間違いなく、聞き覚えのある声がした。
和希が恐る恐るその姿を確認すると、
「げっ」
呻き声を、浩一は聞き逃さなかった。
「どうした?」
和希は浩一の腕を掴み引き寄せ、くるりと皆に背を向ける。
「マジ、ヤバイって。あの人、俺の学校の英語の先生だ」
「マジか!」
「ねえー? お待たせ、全員揃ったわよー」
尋子に声を掛けかられて、浩一は頬を引きつらせながら振り返った。
「あ、はい! じゃあ 店に移動しましょうか!」
和希が「おい」と腕を引く。
「帰るぞ」
「まあまあ、とりあえず乾杯だけでも」
「無理だって!」
「現時点で気付いてなさそうじゃん?」
「ええっ?」
愛由美を見ると、尋子と楽しげに話していて、確かに和希には気付いていない。
いつもしている眼鏡をしていないし、和希も制服ではないからだろうか?
結局、言われるがまま、近くに居酒屋に入ってしまう。
*
ビールは10杯、人数分だ。
「せめてお茶……」
和希にだって、常識はある。
「まあまあ」
対して浩一はその辺りの禁忌は低い、飲んでも構わないと思っている。
武藤兄弟は並んで座り、コソコソしていた。
「もう、みんな若いじゃんー」
愛由美は愚痴った。
幹事の尋子は、今年の新入社員を三人連れてきていた。
愛由美と尋子は大学の同級生、今年で28歳だ。
「そうなの、後輩にセッティング頼まれてさ。取り引き先の武藤君に頼んで集めてもらったのよ。ね? 武藤君?」
「「はい?」」
和希と浩一が同時に返事をした。
やば……っ、と、和希は慌てて顔を伏せる。
「えっ、あ、そうなんすよ!」
浩一が慌てて言う。
「こっちも飢えたのが多くて!」
浩一は24歳で、やはり新入社員を誘って来ている。
「武藤さんって」
愛由美は小首を傾げて聞いた、和希がぴくりと肩を震わせる。
「弟さん、います?」
「「えっ!?」」
またもや和希と浩一の声が重なる。
「あ、いや、その」
口籠る浩一を脚を、和希は容赦ない力でつねった。
「あいっ……!」
「はい、もう一人、俺の下に。今高校生です」
言われて愛由美は破顔した。
「あー、やっぱりー。お二人とも声がよく似てます、武藤和希くんに」
言われて武藤兄弟は心臓がバクバクしだしたが、顔には出さないように努める。
「え、と。和希を、知ってるんですか?」
和希はわざと聞いてみた、浩一は和希の脇腹を突いて牽制したが、和希は愛由美を見て微笑んでいた。
「教え子です。私、横浜第二高校で先生してるんです」
(そんなことは知ってるよ)
和希は心の中で思う。
「へえ、先生なんだ、見えませんね」
「そうなんです、どうも甘く見えるみたいで。せめての抵抗で、学校では眼鏡掛けてできる風に見せてます」
ジョッキを両手で持ち微笑む愛由美は、やはり学校で見る姿とは大違いだった。
「目……悪いんですか?」
「ええ。今もそちらには男性がいるくらいしか判りません、なんて、そこまでではないですけど」
「そうなんだ」
和希は微笑む。
(だから俺って判らないのか)
少し安心した。
「こんなとこでお兄さん達と飲んでるなんてばれたら、嫌な顔されちゃいますね」
愛由美は笑顔のまま続けた。
「内緒にしておきますよ」
和希も笑って答える、口の端が妙に釣りあがっている気がした。
「私も内緒にしておきます」
口元に手を当てて微笑む、そんな顔は学校では見た事がなかった。