クリスマス・イルミネーション
ペンギンの水槽を今日もたっぷり時間をかけて見ていたが、広さは八景島シーパラダイスよりは小さいのか、三時間程で全てを見終わってしまう。
そこを出て湖畔のカフェで小腹を満たしていると、愛由美が湖面を見て言った。
「テレビで見る鳥居ってどこ?」
「ああ、九頭龍神社だな。行ってみるか?」
「うんっ」
車で移動し、駐車場から参道を手を繋いで歩く。
山道を散々歩き、ようやく着いた狭い境内は賑わっていた。
「ここって、縁結びのご利益があるって知ってる?」
和希の言葉に、愛由美は「え」と眉をひそめた。
「なに?」
意外な反応に、和希は聞き返す。
「……来たことあるんだね? ああ、だから詳しいのか……」
ぼそぼそと愛由美は言う、そんな様子を和希は怪訝に思う。
「ああ、家族とな」
言ってから思う、確かに来た事はあるがそんなに前の話ではない。
今は離婚して一緒に住んでいない家族といつまで一緒にいたか、細かい設定をしておかないとボロが出てしまうかも知れないと。
「あ、縁結びなのに、離婚した夫婦と来たなんて、ご利益ないのがバレるな」
言いながら両親に心の中で詫びた、勿論両親は仲睦まじい。
「あ、ううん……」
曖昧な返事をして、愛由美は背を向けた。
(一緒に来たのが女の子だって思い込んで、ムカっとしちゃった。まるで嫉妬してるみたい、なんで晴真に嫉妬するなんて。そりゃドライブなんてデートみたいって思ったけど)
動揺を隠しながら歩く。
「さすがに疲れたか?」
和希が声をかける。
「ううん、平気」
湖畔に立つ鳥居を見つけた。
「反対向きだからか、テレビで見るのとは違うね」
「そうだな。本来はあの鳥居をくぐるように、湖から参拝するのが正しいんだぞ」
「えっ、そうなの!? そうしたかった!」
「寒いからな」
実際には出費があるからだ。愛由美は自分が払うと言い出すだろうと思えた、自分から誘っておいて、何から何まででは、さすがに廃るものがある。
「あ、なるほど」
愛由美はあっさり納得する。
「今度は夏に来よう」
「えっ」
「な?」
和希は目を細めて笑顔で言った。
そんな眩しく見える笑顔に、愛由美の胸が高鳴る。
「つか、本当は、九頭龍新宮ってのが箱根神社にあって、もっと楽にお参りできる」
「え!? なんでわざわざ山道に!?」
「何事も経験だから」
「なにそれ!」
怒る愛由美に笑顔で返す和希。
そんな喜怒哀楽に溢れる歩みを知るのは自分だけだ──和希は湧いてくる独占欲に、気付かないフリをした。