クリスマス・イルミネーション
参拝を終えて、芦ノ湖スカイラインを走らせる。途中、芦ノ湖を望める場所で車を停めた。

夕焼けに照らされた紅葉が、赤さを増して輝いていた。

「すごーいっ!」

愛由美は柵から身を乗り出して喜んだ。

「こんなに綺麗な紅葉、初めて見た!」

思わず和希は吹き出した、それに気付いて愛由美が不機嫌に振り返る。

「なによう」
「いや、この間の夜景といい、いい反応するなと思って」
「だって綺麗なんだもん」
「はいはい、誘った甲斐があるから嬉しいよ」
「もうっ、馬鹿にしてっ」
「本当に嬉しいって」

そう言って愛由美を背後から抱き締めた。

(そんな風に感情を出すのも、俺の前だけだよな)

愛由美の髪に鼻先を埋める。

「愛由美」

耳元の声に、愛由美は「うーん?」と気のない返事をする。

「キスしてもいい?」
「やだ」

愛由美の返事は意外な程早く、しかも否定された。

「──なんでだよ」
「してもいいかって言われてするキスなんて嫌だし、そもそも晴真とはそんな関係じゃないし」
「マジかよ、ここまで来ておいて」
「来たけど、そんなつもりじゃなかったし」
「だとしたら、無防備過ぎ」

肩を掴み、無理矢理向かい合わせになる。

さすがの愛由美も何か感じた、すぐさま和希の口を掌で押さえる。

「お前」

和希はその手の舌で、もごもご言う。

「年上にお前なんて言わないっ」
「……判ったよ」

判ったのは、キスはしないと言う点だ。

和希が諦めて肩から手を離すと、愛由美は頬を膨らませたまま、再度紅葉に向き直る。

実際は、愛由美の心臓は破裂寸前だ。

(どうしよう! 本当だ、こんなとこまで来てて、そんな関係じゃないなんて通用しないよね!? でもでも、武藤くんのお兄さんなんて、無理!)

紅葉に見入るふりをして、懸命に動揺を収める努力をする。





太陽が山の向こうに消えると、二人は帰路に着いた。

帰りは国道1号でのんびり帰る。
途中のファミリーレストランで夕飯を取ることにした。

愛由美がトレイに立った隙に、和希は家へ連絡を入れる。

『夕飯、食って帰る』

母の三恵子から、すぐに『了解』のスタンプの返信があった。

次いで、

『暗くなってきたから、運転気をつけてね』

気遣うメッセージも。

『判ってる』
『報告、待ってるね』

余計な一言が、ハートマーク付きで返って来た。

「……するかっ」

小さな声で怒鳴る。





和希が自宅に戻ったのは10時に近かったが、リビングに入ると、母と浩一が待っていた。

「ただいま。兄貴、ごめん、ガソリンは明日入れとくから」
「別にいいって」

車の名義は浩一だが、実際には家族で使っている。無いと思った者が入れる事が多い。

母も兄も、ニヤニヤしているのに気付いた。

「なんだよ」
「賭けに負けた、今夜は帰ってこないに賭けてたのに」
「……帰って来んに、決まってるだろ」
「お母さんはお相手を連れて来て、紹介してくれるに賭けてたの」

和希は大袈裟に溜息を吐いた。

「そんな関係じゃねえよ」
「あら、女の子と二人きりだったんでしょ?」

(なんで判るんだよ)

口には出さなかったのに、母は言った。

「女の勘よ。服装、身だしなみ、夕飯の連絡がLINE、などなど」
「……そうですか」

冷めた口調で言って、「もう寝る」とリビングを後にする。
背後で二人がなにやらこそこそと言う雰囲気で話しているのは判ったが、内容など理解したくはなかった。

「……振られたしなぁ……」

小さな声で呟いた。
< 21 / 45 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop