クリスマス・イルミネーション
ワールドポーターズ内の店舗で、ウィンドーショッピングを楽しんだ。
手を繋いで歩く二人を、二十歳前後と見られる女三人がチラチラと見ているのに、愛由美は気付いた。
「かっこいいよね」
声が聞こえてきた、『晴真』の事だと判る。
「本当、俳優に似てる、名前なんて言ったっけ?」
(俳優? 誰だろ?)
思わず和希を見上げた。
「つか一緒にいる女、何?」
(口、悪いわよっ)
愛由美は顔に出さず怒る。
「ちっちゃ! 妹じゃないの?」
(聞こえてますよお、身体的ディスはやめましょー)
「娘だったりして」
(いやいや、年齢が! 私そんなに幼い!?)
「やだあっ、あんなかっこいい人がもう既婚者!?」
(そもそも、だし)
「彼女はないよねー」
(悪かったわね、確かに違う、けど)
そこまで思って、はたと止まる。
(けど、何?)
「愛由美?」
急に呼ばれて、大きく肩を揺らす愛由美。
「あっ、ごめっ! なんでもないっ!」
声も大きくなり、周りの視線を浴びる。
「どうしたの? 疲れた?」
優しい言葉に、頭をブンブンと振る。
「ねえ、どれにする?」
「え?」
「クリスマスプレゼントに買ってやるよ」
指輪を指差した。
「えっ!?」
見て驚いた、値段とて、自分でご褒美と言い訳して買う様な値段だ。
「駄目だよ、そんなの……」
「なんで? 俺が贈りたいんだから」
和希は微笑んだ、それに愛由美も嬉しくなる。
「うーん、じゃあ……交換しよっ」
「交換?」
「晴真の欲しいものと、交換」
「ふーん……」
「何かある?」
「ある」
「じゃあ、それと……」
「愛由美」
「なあに?」
「何じゃない、愛由美が欲しい」
言われて、愛由美は笑顔が張り付いたまま固まる。
本気だ、と言葉を繋ごうとした時。
「もう! またそんな事言って!」
ばんっと遠慮ない力で和希の背中を引っ叩いた。
「今すぐ決められないなら、今度買い物に行こ。私のもその時選ぶね」
明るく笑って背を向けてしまう愛由美を、和希は引き止めようとしてやめた。
(……ったく、馬鹿力が)
背中がじんじん痛かった。
その建物を出ると、近くの結婚式場から花嫁が出てくるとこだった。
式が終わったのだろうか、晴れやかな笑顔をたたえていた。
愛由美はそれを視界の端に見つけると、じっと見入った。
まだ28歳、もう28歳。
故郷の地元を離れていない友達は概ね結婚した、結婚した子は皆子持ちだ、幸せそうにしている。親からはそろそろ相手を紹介しろなどとも言われているが、愛由美自身はそれどころではない。先生稼業は楽ではないと思う。もっとも姉の一人は28歳の時、もう子供が一人いたから、これは巡り合わせか、本人の器用さにもよるのではないかと思う。
「愛由美も似合うと思うよ」
視線に気づいた和希が背後から言った。
愛由美ははっとして和希を仰ぎ見る。
「ウェディングドレスは上手くできてて、誰にでも似合うようにできてるの」
半ば嫌味で言う。似合わない人など見た事ないし、かと言って自分が着た姿など思いも寄らない。
「じゃあ、愛由美が一番似合うと思う」
真面目な口調に、愛由美は一瞬呆気に取られ、それから笑い飛ばした。
「もう、なにそれ。ありがと、褒め言葉?」
「俺の隣で着て欲しいってこと」
またもや真面目に言われ、今度こそ愛由美は言葉を失う。
(それって、プロポーズ? でも付き合ってもないのに? キスもしてないのに? まあそれを嫌がったのは私だけど。隣で着るって……)
「……コスプレ?」
ぽつりと聞いてしまった。和希は盛大に吹き出した。
「いや、その趣味はないな」
まったくー、と和希は愛由美の肩を抱いた。
「処女は鈍くて困る」
「違うって言ってるじゃん!」
「それは、確認しないと信じられないな」
「もう、やだ! 馬鹿!」
愛由美は乱暴に和希の手を振り払うと、さっさと歩き出した。