クリスマス・イルミネーション
その姿が見えなくなってから、和希はさっきから震えっぱなしのスマホを出す。
数件の着信履歴の後、メッセージが連なっていた、全て水野からだ。
『別れないから!』
そんな文面がいくつも並ぶ。
『もうすぐクリスマスなのに!』
デートしようとしつこい水野に、放課後、別れ話をした。
あっさり行くと思いきや、予想外に嫌がられる、そう「クリスマス、どうするの!?」と詰め寄られた。
(どうもしねーし)
富樫に言われてすぐの頃ならば、すんなり別れられたかなどと後悔してみるが手遅れだ。
(まあ、時が過ぎるのを待ってみるか)
クリスマスが終わればいいのか?と思いながら、スマホの電源を落とした。
*
トイレの鏡の前で、愛由美は両手で赤く火照る頬を覆う。
(あーもーっ。意識してしまう!)
『晴真』の笑顔が、目の前をチラつく。
(駄目だ、駄目だ! 武藤くんのお兄さんなんて、駄目だ! そうじゃなくたって年も違うし、きっと物珍しいだけ!)
でも、と思う。
(優しいし、かっこいいし、あんな風に口説いてるなんて全開で言われたりすると、ご、誤解を……!)
ますます熱くなる頬を、思い切り挟むようにして包み込む。
(逢わなければ、いいのに)
自分に言う。
(それに、武藤くん……)
学校で会う和希の姿を思い出す。
(お兄さんなんかじゃなかったら……)
にこりともしない美丈夫を、意識しない日はない。
それも『晴真』の所為だと思う、晴真が気になるから、和希も意識してしまうのだと。
(晴真……)
目を閉じると、たった今の会話が戻ってきて、また顔が熱くなる。
(……でも、誘われると嬉しい、話してると楽しい、そばにいると安心する……)
女の顔をした鏡の中の自分を見て、愛由美は大きな溜息を吐いた。