クリスマス・イルミネーション

その姿が見えなくなってから、和希はさっきから震えっぱなしのスマホを出す。

数件の着信履歴の後、メッセージが連なっていた、全て水野からだ。

『別れないから!』

そんな文面がいくつも並ぶ。

『もうすぐクリスマスなのに!』

デートしようとしつこい水野に、放課後、別れ話をした。

あっさり行くと思いきや、予想外に嫌がられる、そう「クリスマス、どうするの!?」と詰め寄られた。

(どうもしねーし)

富樫に言われてすぐの頃ならば、すんなり別れられたかなどと後悔してみるが手遅れだ。

(まあ、時が過ぎるのを待ってみるか)

クリスマスが終わればいいのか?と思いながら、スマホの電源を落とした。





トイレの鏡の前で、愛由美は両手で赤く火照る頬を覆う。

(あーもーっ。意識してしまう!)

『晴真』の笑顔が、目の前をチラつく。

(駄目だ、駄目だ! 武藤くんのお兄さんなんて、駄目だ! そうじゃなくたって年も違うし、きっと物珍しいだけ!)

でも、と思う。

(優しいし、かっこいいし、あんな風に口説いてるなんて全開で言われたりすると、ご、誤解を……!)

ますます熱くなる頬を、思い切り挟むようにして包み込む。

(逢わなければ、いいのに)

自分に言う。

(それに、武藤くん……)

学校で会う和希の姿を思い出す。

(お兄さんなんかじゃなかったら……)

にこりともしない美丈夫を、意識しない日はない。
それも『晴真』の所為だと思う、晴真が気になるから、和希も意識してしまうのだと。

(晴真……)

目を閉じると、たった今の会話が戻ってきて、また顔が熱くなる。

(……でも、誘われると嬉しい、話してると楽しい、そばにいると安心する……)

女の顔をした鏡の中の自分を見て、愛由美は大きな溜息を吐いた。
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