クリスマス・イルミネーション
17時から始まるライトアップに合わせて宮ヶ瀬ダムへ向かう。
ちょうど夕日が山の稜線にかかり始めていた。
その様子を、愛由美はベンチに座りうっとりと見ている。
「綺麗だね」
「そうだな」
そんな気もなさそうな言い方だが、愛由美は気にしない。
見る見る内に陽は稜線に消え、残照が眩しくすらあった。
それにも見惚れる愛由美の手を引いて、ツリーがあるエリアを見下ろせる場所まで連れて行った。
「どうせなら近くまで」
和希が誘う。
「まだここでいい。ここからの方が全部見えるもん」
愛由美は目を輝かせて言う。
「まあいいけど」
間も無く、イルミネーションが一斉に点灯した。
「わあっ、凄ーい! 綺麗だねーっ! 大きいねえ!」
愛由美は嬉しそうに、胸の前で小さな拍手をした。
「こんな大きなツリー、初めて見た! 外国にしかないと思ってたよ!」
喜ぶ愛由美の首に手を掛け、和希はそっと抱き寄せる。
(手、意外とあったかい)
どうでもいい事を考えている間に、視界に和希の顔が入ってきた。
(あ、これは……駄目なヤツだ、嫌だって言わなきゃ……)
頭では判る、だが身体は言う事を聞かなかった。
視線をそらすのが精一杯だった、その間にも和希の手が髪を梳くように後頭部に回され、更に力が入ったのが判る。
引き寄せられた、なんとか手は動かし和希の胸に手をついたが拒絶は伝わらなかった。
唇が触れる寸前に目を閉じていた。
さっきより長く深く、触れ合う。
しばらくして和希は離れた。愛由美は慌てて顔を伏せる。
「怒る?」
囁くように聞かれ、愛由美は首を小さく左右に振った。
「良かった」
和希は嬉しそうに微笑み、愛由美を身体ごと抱き寄せ再度唇を重ねた。
初めは戸惑った愛由美も、躊躇いながらも和希の背に手を添えた。
(落ちたな)
和希は内心ほくそ笑む。
(今、和希だと打ち明けたら、どんな顔するか)
唇を離した愛由美と見つめ合う。
恥ずかしさと嬉しさが同居した、初々しくも色気のある愛由美がいた。大きな瞳が潤んで輝いている。
それは和希の胸を鷲掴みにした。
「……俺の事、好き?」
小さな声で聞いていた。
愛由美は驚いたように目を開いて和希を見た。驚いた表情は、すぐに恥ずかしげにほんのり頬を染め、瞳も潤みを増す。
「うん……」
声と言うより仕草だった、大分してから小さな声で言う。
「……好き」
それを聞いて和希は微笑んで、抱き締めた。
(まあいいか……もう少し遊んでからでも……)
愛由美は和希の胸に顔を埋めて、深呼吸をした。
(……もう、いいや)
和希の身長の割に細い腰に腕を回す。
(誤魔化さなくて、いいや……どうなっても……)
抱き寄せ合って、二人揃って眼下のツリーを見つめた。