クリスマス・イルミネーション
*
久々の楽しい時間に、愛由美は酔った感覚を覚えた。
トイレに立つと、廊下でばったり和希に会う。
「あ、武藤さん」
にこっと微笑んだ、いつも見せる教師の顔ではなかった。
和希は反応に困り、視線を彷徨わせる。
(ここまで気付かないってあるか!?)
しかし愛由美は、何も気づいていない様子で微笑んでいる。
「凄い、双子ってくらい、似てますね」
言われて、和希は肩を落とした。
「(意外過ぎるくらい、天然なのか)あんまり見えていないんでしょう?」
聞いてみた。
「はい、でも雰囲気と言うか、似てます。和希さんより、親しみ易い感じですけど」
「……え?」
別に何を変えたつもりはない、むしろ大人っぽくしたつもりだ、なのに……。
「和希さん、なんかいつも斜に構えてて、話しかけてもうるせえくらいの返事しかしてくれないし。あ、そんなに親しく話したことはないんですよ? でも、お兄さんは笑いますもん」
「笑う……?」
学校でも笑っている。でも確かに教師相手には無愛想かも知れないが。
「弟……和希はどんな生徒ですか?」
面白がって聞いてみた。
「うーん。かっこいいと思います、実際モテるんじゃないかしら? よく女の子と歩いてるし。勉強も、眠ってたりぼんやりしてたりしてる時もありますけど、ここぞって時、こっちもちゃんと聞いてねって時には真剣にやってるし、現に成績はいいですよ」
「ふうん……(ちゃんと見てるんだな)……そんなに見てるなんて、和希の事、好きなんですか?」
「好きー? ないですよ、高校生相手なんて! 未成年に手を出す程困ってませんから!」
愛由美は楽しそうに、コロコロと笑った。
(あ、そ)
和希は少しむっとした。
「……ねえ?」
低い声で聞く。
「良かったら、また会ってくれませんか?」
言われて愛由美は大層驚く。
「えっ!? でもそんな……教え子のお兄さんなんて、ちょっと、うーん……」
「俺も教え子って訳じゃないし。和希に許可をもらう必要はないでしょ?」
「でも……」
愛由美は戸惑う。
(だって年下だよ? しかも武藤くんのお兄さんだなんて……)
長身の男を見上げた、この距離でもやっと目鼻の位置が判る程度の視力しかない。
(背、高いな……やっぱり武藤くんにすごく似てると思う……また会いたいって……)
不謹慎にも、心が揺れた。
そこへ、和希が身を屈めてくる。壁に手をつき、愛由美を覗き込むように見た。
(こ、これは、壁ドン!?)
自分は壁に追いやられてはいないが、眼鏡越しに色っぽい瞳と絡み合い、やたら心は騒いだ。
「駄目?」
低い声が耳の近くでした。
「あ、会う、くらいなら……」
愛由美の言葉に、和希は笑った。
「会うだけじゃつまらないじゃない」
和希の言葉に、愛由美はうろたえる。
「え!?」
「お茶くらいさせてよ」
「あ、あー……お茶……」
「ん? 別の事、期待した?」
「べ、別ってなんですか!?」
「俺が聞きたい」
くすくす笑う和希に、愛由美は耳まで真っ赤にさせながら「いいです、会います」と少し投げやりな返事をして、スマホを取り出し、連絡先のバーコードを見せた。
(まさか、男の経験がない訳じゃないよな?)
淡い化粧をした顔を見下ろしながら和希は思う。
(まあ、面白いや。少しからかってやろう)
「じゃあ、後でメールしますね」
そう言って画面を消した。自分のデータもやり取りしたら、名前がバレてしまう。
「はい」
愛由美は疑いもせず、小さく頭を下げてトイレに向かう。
久々の楽しい時間に、愛由美は酔った感覚を覚えた。
トイレに立つと、廊下でばったり和希に会う。
「あ、武藤さん」
にこっと微笑んだ、いつも見せる教師の顔ではなかった。
和希は反応に困り、視線を彷徨わせる。
(ここまで気付かないってあるか!?)
しかし愛由美は、何も気づいていない様子で微笑んでいる。
「凄い、双子ってくらい、似てますね」
言われて、和希は肩を落とした。
「(意外過ぎるくらい、天然なのか)あんまり見えていないんでしょう?」
聞いてみた。
「はい、でも雰囲気と言うか、似てます。和希さんより、親しみ易い感じですけど」
「……え?」
別に何を変えたつもりはない、むしろ大人っぽくしたつもりだ、なのに……。
「和希さん、なんかいつも斜に構えてて、話しかけてもうるせえくらいの返事しかしてくれないし。あ、そんなに親しく話したことはないんですよ? でも、お兄さんは笑いますもん」
「笑う……?」
学校でも笑っている。でも確かに教師相手には無愛想かも知れないが。
「弟……和希はどんな生徒ですか?」
面白がって聞いてみた。
「うーん。かっこいいと思います、実際モテるんじゃないかしら? よく女の子と歩いてるし。勉強も、眠ってたりぼんやりしてたりしてる時もありますけど、ここぞって時、こっちもちゃんと聞いてねって時には真剣にやってるし、現に成績はいいですよ」
「ふうん……(ちゃんと見てるんだな)……そんなに見てるなんて、和希の事、好きなんですか?」
「好きー? ないですよ、高校生相手なんて! 未成年に手を出す程困ってませんから!」
愛由美は楽しそうに、コロコロと笑った。
(あ、そ)
和希は少しむっとした。
「……ねえ?」
低い声で聞く。
「良かったら、また会ってくれませんか?」
言われて愛由美は大層驚く。
「えっ!? でもそんな……教え子のお兄さんなんて、ちょっと、うーん……」
「俺も教え子って訳じゃないし。和希に許可をもらう必要はないでしょ?」
「でも……」
愛由美は戸惑う。
(だって年下だよ? しかも武藤くんのお兄さんだなんて……)
長身の男を見上げた、この距離でもやっと目鼻の位置が判る程度の視力しかない。
(背、高いな……やっぱり武藤くんにすごく似てると思う……また会いたいって……)
不謹慎にも、心が揺れた。
そこへ、和希が身を屈めてくる。壁に手をつき、愛由美を覗き込むように見た。
(こ、これは、壁ドン!?)
自分は壁に追いやられてはいないが、眼鏡越しに色っぽい瞳と絡み合い、やたら心は騒いだ。
「駄目?」
低い声が耳の近くでした。
「あ、会う、くらいなら……」
愛由美の言葉に、和希は笑った。
「会うだけじゃつまらないじゃない」
和希の言葉に、愛由美はうろたえる。
「え!?」
「お茶くらいさせてよ」
「あ、あー……お茶……」
「ん? 別の事、期待した?」
「べ、別ってなんですか!?」
「俺が聞きたい」
くすくす笑う和希に、愛由美は耳まで真っ赤にさせながら「いいです、会います」と少し投げやりな返事をして、スマホを取り出し、連絡先のバーコードを見せた。
(まさか、男の経験がない訳じゃないよな?)
淡い化粧をした顔を見下ろしながら和希は思う。
(まあ、面白いや。少しからかってやろう)
「じゃあ、後でメールしますね」
そう言って画面を消した。自分のデータもやり取りしたら、名前がバレてしまう。
「はい」
愛由美は疑いもせず、小さく頭を下げてトイレに向かう。