クリスマス・イルミネーション
12月16日
待ち合わせは横浜駅だった。
「わっ」
声と共に背後から抱き着かれ、和希は息を呑んだ。
背後を見下ろすと、愛由美が抱き着いたまま満面の笑顔で和希を見上げている。
「びっくりした?」
「……ああ、びっくりした」
安堵の吐息と共に言う。
結局その週は、和希からの逢いたいと言うメッセージに、愛由美はにべもない返事ばかりだった。
一週間ぶりの『晴真』としての再会だ。
正直、もう逢わないのでは思っていた。
だが日曜日には逢いたいと言うメッセージには了承の返事が来た。もしかしたらもう正体がバレていて、愛由美は憤怒の顔で現れるのかと思ってもいた。
それくらい、学校で見る愛由美はつれない態度だったのだ。
それが今、先週『晴真』と別れた時と同じ、眩しい笑顔があった。
まだ大丈夫だ、と和希は安堵した。
一方、愛由美は。
愛由美の家から待ち合わせ場所の横浜駅の東西自由通路に来るならば、西口方面の階段を降りて来るのが普通だった。
それをわざわざ30分も早く家を出て、東口の地下街で時間を潰して、和希の裏をかいて真反対から現れたのだ。
案の定、和希は時折階段を見上げていた。その瞬間をついて、背後から抱き着いた。
その驚いた顔を見て満足した、全ては『晴馬』をびっくりさせたかっただけだ。
和希はすぐに抱き締め返し、愛由美の柔らかい髪に鼻を埋める。
「何処行く?」
買い物がしたいと、愛由美が言っていた。
「横浜でもいいけど、みなとみらいか元町がいいかな」
この場合の『横浜』は横浜駅周辺を指す。
二人は京浜東北線に乗って石川町駅へ向かう。
「忙しかったんだ?」
逢ってくれなかった事をさり気なく聞いてみた。
「うん、一、二年は中間テストがあったからその丸付けとか、最近晴真と遊んでばっかだからレジュメ作りもしてなかったし、ちょっとお仕事モードにしてみた」
「そっか」
本当に忙しかったのだと納得できた。
「……和希とは?」
つれない態度の理由を聞きたかった。
「和希くん?」
愛由美はきょとんとした、質問の仕方を間違えたかと『晴真』は内心焦る。
「うーん、さすがに顔が合わせ辛くて。いないものとしてやり過ごすようにしてる」
愛由美は素直に答えた。
「……いないもの」
に、された和希は少しムッとする。
「晴真が大人なんだから上手くやれって言ってたじゃない。だからね」
愛由美は笑顔で答える。
「あ、そ……」
「今更馴れ馴れしく報告もできないし。もし和希くんに会う機会があったら、晴真から言っておいてね。あ、無理に言わなくてもいいけど」
「はいはい(今度覚えておけよ)」
不機嫌に答える和希を、愛由美は不思議そうに見上げていた。