クリスマス・イルミネーション
店を出ると、ネックレスを隠すようにマフラーを巻いた。
「愛由美、なんで怒ってるんだよ」
「別に」
言葉とは裏腹に、愛由美はズンズン歩いていく。
「やっぱりゴールドの方が良かった?」
「違う」
「童顔って言ったの怒ってる? それは悪口じゃないだろ」
「そんな事じゃ」
「じゃあなんで怒ってるんだよ?」
「怒ってないったら!」
「怒ってるじゃん」
言われて愛由美はピタリと足を止めた。
「つ、つまんない事だから。少しほっといて」
「気になる」
和希は身をかがめて、愛由美と視線を合わせる。
「嫌な事があるなら言って欲しい」
愛由美は少しの間、視線を彷徨わせてから、意を決して言った。
「……少しやきもち。今まで付き合った人に、10月生まれの人がいたんだなって」
「……」
和希はしばらく考える。
「……10月生まれはいないな」
聞いて、愛由美はますます不機嫌になる。
「……10月生まれ以外は、全部いるような言い方はしないで」
「さすがに全部はいない」
「もうっ!」
愛由美は和希の頬を押して、目の前からどかした。
「判ったよ、晴真は遊び人だもんね!」
「誕生石知ってるくらいでなんだよ。そういうの知ってる男もいるの」
「そうかもしれないけどっ」
「愛由美」
和希は背後から愛由美を抱き締めた。
「怒んなよ」
そのまま和希が上体を起こせば、愛由美の足は宙に浮いてしまう。
「ちょっと! 下ろしてよ!」
「怒るのやめたらね」
「恥ずかしいからっ、早く……っ」
暴れる愛由美を物ともせず、和希は笑いながら歩いていく。
(小さい体だな、軽いし。子供みたいな……ん、でも)
コート越しに感じる、くびれた腰と、腹は薄いのに丸みのある臀部を手の平で撫でた。
(意外と、肉付きはいい……)
「はーるーまーっ」
本格的な怒りを感じて、和希は愛由美の足を地面につけてやった。
笑いながら首筋に鼻先を押し付けて言う。
「あと一時間もしたら日が暮れる、それまで時間潰そう」
近くのスターバックスコーヒーに誘った。
*
元町商店街のイルミネーションはスターバックスコーヒーからも堪能出来た。周囲が暗くなるにつれ、明るさを増すイルミネーションに愛由美は終始ご機嫌だった。
すっかり日が暮れると、和希が誘って歩き出す。
マリンタワーがクリスマス仕様にライトアップされていて美しかった。
「わあ……」
近くまで来ると、愛由美は足を止めて見上げる。
「凄い綺麗」
白い息を吐いて、愛由美は呟いた。
「愛由美の方が綺麗だよ」
和希が言うと、愛由美は吹き出す。
「もうなに、その安っぽいセリフはー」
見上げた愛由美に、和希は盗むようにキスをした。
「本心だけどな」
「はいはい、童顔と綺麗は同居しませんから」
言葉は怒っているが、愛由美は笑顔で和希の腰に腕を回して言う。
そんな愛由美の頭を抱き寄せ、和希は言った。
「ねえ、ホテル行く?」
「行かないよー」
愛由美は即答だ。
「ちっ」
和希はあからさまに舌打ちする。
でも決して嫌な顔はしていない、それを見て愛由美は微笑む。
愛由美とて特別に身持ちが固い訳ではなく、焦らしているつもりでもない、単に気持ちの問題だ。まだそういう気分にはなれない。
それが判ったから、和希も無理強いはしない、自分の下心は棚上げして愛由美の気持ちを優先させる『演技』はできる。
それでも山下公園へ誘い、ベンチに腰掛けた時、欲望は止まらなかった。
強く抱き締め、何度もキスをする。
マフラーの下の、贈ったばかりのネックレスに触れた。
ネックレスの鎖をなぞると、滑らかな温かい肌も感じた。
(まだ逃さないからな)
温もりを味わいながら、戸惑ったように目を伏せる愛由美を見つめ思う。
(まだ、足りない)
愛由美は小さな体を和希に預ける、髪を梳く様に頭を撫で、髪にそっとキスをした。