クリスマス・イルミネーション
12月19日
授業中、板書する愛由美の後ろ姿を、和希は凝視していた。
ブラウスの襟は高く、あのネックレスはしているのかは判らない。
(ったく。やっぱ指輪にすりゃ良かったな)
内心ゴチる。
(昨日も一昨日も似たような服着やがって。開襟のシャツくらい着ろよ。まあ考えてみりゃ、いつもこんな服だったか。だから余計固く見えてたんだな)
愛由美は相変わらず『いないもの』として、和希と接しているようだ。
(ムカつく)
登校も、どうやら時間をずらしたようで会わなくなった。
(つまりは完全に無視はできないって事だよな)
板書を終えた愛由美は振り返り教室を見回した、一瞬和希と目が合ったが、素通りしていく。
(いい度胸だ)
思わず笑みをこぼす。
(俺を見ないなんて、許さないからな)
*
横浜駅西口の地下街にある本屋で。
愛由美は文房具を見に来たついでに、授業に使えそうな資料探しに本屋に寄った。
教師歴も六年、そこそこ資料は溜まっているが、たまに目新しいものがないか、探しにくる。
(あ、あれ、使えるかな……)
天井近くの棚にある参考書が目に入った。
(さすがに届かないなあ、踏み台……は、恥ずかしいから、店員さんにお願いして……)
本を見ながら悩む。
(晴真と買いに来ようかな、そしたら……)
「これですか?」
不意に背後から手が伸び、見つめていた本の背表紙に指を掛けた。
その声が、愛しい人の声に聞こえ、愛由美は笑顔になってそちらを見てしまう。
「晴………………っ!?」
手を伸ばしていたのは、和希だった。
体が触れ合う程近くにいた。和希の身長ならば背伸びしなくても届く高さにあったその本を取ると、愛由美に差し出す。
「どうぞ」
肩に学生鞄を掛け、ダッフルコートの裾から覗くのは制服のスラックス、間違いなく和希だった。
「あ、ありがとう」
先生のモードで礼を述べる、なんとなく居心地の悪さを感じ、そそくさと去ろうと構えると、
「先生じゃ届きませんもんね、お役に立てて何よりです」
話しかけられた。
(嫌味ー! 小さくて悪かったわね!)
内心ムッとしながら、表面は冷静を装い答える。
「そうね、助かったわ。でも、武藤くん……なんでここに……」
思わず聞いていた。
(まさか、つけて来たなんて事は……)
晴真との事に勘付いて、と愛由美は推測した。