クリスマス・イルミネーション
「たまたま、冨樫といたんです。そしたら先生が来たので」
それは本当の事だった、富樫が文房具コーナーからこちらを忍び笑いで見ていた。
「そう」
平常心を取り繕って答える。
「受験の本ですか?」
愛由美がもう一冊、胸に抱いていた本に気付いた。大学受験用の問題集だ。
「また受験するんですか?」
「違うに決まってるでしょ。あなた達の勉強用にレジュメを作るから、その資料に」
学校にもあるが、それは持ち出し禁止だ。
「なんだ」
和希は微笑んで身を屈めた、愛由美と視線の高さを合わせるように。
「受験してくれて同じ学年になったら、先生口説けると思ったのに」
しかし、愛由美の反応は和希の予想に反していた。
「武藤くんにそんな風に言ってもらえるなんて嬉しいわ」
精一杯の抵抗を、無表情に言った。
「でも、身に付ける為の勉強はもうこりごり。勉強は若い子の特権よ」
もっと怒ったり動揺したりするのかと思えば。意外なほど冷たく冷静な声だった。
そんな様子を、和希はじっと見ていた。
「なに……」
愛由美が言いかけた時、和希の指が、愛由美のブラウスの襟に触れた。
「!?!?!?」
慌てて首を押さえて、愛由美は三歩も後ずさる。
「なっ、なにを!?」
「ああ、すいません、襟がおかしかったので」
もちろん、そんな事はない。
「あああ、ありがとう! でももう家に帰るだけだし、マフラーもあるから!」
首筋を押さえ、顔を真っ赤にしたまま、半ば怒鳴るように言う。
「ネックレス」
「はい!?」
「可愛いの、してるんですね」
一瞬見えたそれを、襟をほんの少しずらし確認した。
自分が選んだピンクゴールドのネックレスのチェーンを。
(ちゃんとしてたな)
和希は笑みを浮かべて愛由美を見る。
「えっ、ああ……っ」
愛由美は俯いた、赤面しているの先程と同じだが、表情が違う、恋をしている女の顔、だ。
「ありがとう」
はっきりと、熱のこもった声で言った。
「もっと見えるようにしてください」
「えっ!?」
「ヘッドも見たいです」
「な、なんで……っ」
「全部見たいです、似合ってそうなので」
「……」
一転、愛由美は口を真一文字に結び、和希を睨みつける。
「何か?」
和希は瞳は涼しく、口元だけ上げて微笑んだ。
「……いえ。なんでも」
愛由美は顔を無表情に戻して、もう一度本を取ってくれた礼を述べて、会計に向かう。
(ふん、すましやがって)
後ろ姿を横目で見送りながら思う。
和希は、自分の口元に笑みが浮かんでいることに気付かなかった。
冨樫が後ろから声をかける。
「びっくりー。お前、何やってんの? 保坂に触るなんて」
和希は軽く咳払いしてから振り向いた。
「別に触った訳じゃない」
「水野と別れて、欲求不満なんだな? あー水野と言えば、新しいの捕まえたらしいぞ、あいつも手が早いな」
(どうでもいい)
「つか、保坂、やっぱいい反応するなー、ありゃ処女だな」
ムッとして冨樫を睨みつける、自分が言うのはいいが他人に言われると腹が立つこともある。
「今度、俺も触ってみようかな、固まってるとこ、そのままかっさらえそうじゃん?」
「犯罪はやめとけ」
自分がしてきた事はまるで棚に上げて、和希は言い放った。
愛由美は無表情のまま会計をしていたが、その心中は穏やかではなかった。
(なんなのあれ!? 可愛いから見せろなんて! しかも口説くだって! さすが兄弟、発想が同じ!? 女なら手当たり次第口説いてるんじゃないの!?)
会計を終え、地下街から出て、やっと緊張を解いた。
途端に心臓が口から飛び出しそうな程早鐘の打ち、顔は耳まで熱くなる。
(ネックレス、可愛い、か……)
そっと首に手を添えた、和希が触れた、その場所に。
(でも晴真との事は聞いてないんだ、聞いてたらあんな事言わないよね。あーでもびっくりした、本当に声、そっくりだった。兄弟って似るって言うもんね)
自分も姉と間違われた事が何度もある。
(晴真の事考えてたから、来てくれたのかと思っちゃった……)
顔を思い出すだけで、キスの感触まで思い出し、さらに顔が熱くなる。
*
その夜、初めて愛由美から『晴真』に、メッセージを送った。
今週もちょっと忙しいけど、日曜日は逢える?と。
すぐに来た返信に愛由美は笑顔になる。
『俺も逢いたい。今すぐに』
それは本当の事だった、富樫が文房具コーナーからこちらを忍び笑いで見ていた。
「そう」
平常心を取り繕って答える。
「受験の本ですか?」
愛由美がもう一冊、胸に抱いていた本に気付いた。大学受験用の問題集だ。
「また受験するんですか?」
「違うに決まってるでしょ。あなた達の勉強用にレジュメを作るから、その資料に」
学校にもあるが、それは持ち出し禁止だ。
「なんだ」
和希は微笑んで身を屈めた、愛由美と視線の高さを合わせるように。
「受験してくれて同じ学年になったら、先生口説けると思ったのに」
しかし、愛由美の反応は和希の予想に反していた。
「武藤くんにそんな風に言ってもらえるなんて嬉しいわ」
精一杯の抵抗を、無表情に言った。
「でも、身に付ける為の勉強はもうこりごり。勉強は若い子の特権よ」
もっと怒ったり動揺したりするのかと思えば。意外なほど冷たく冷静な声だった。
そんな様子を、和希はじっと見ていた。
「なに……」
愛由美が言いかけた時、和希の指が、愛由美のブラウスの襟に触れた。
「!?!?!?」
慌てて首を押さえて、愛由美は三歩も後ずさる。
「なっ、なにを!?」
「ああ、すいません、襟がおかしかったので」
もちろん、そんな事はない。
「あああ、ありがとう! でももう家に帰るだけだし、マフラーもあるから!」
首筋を押さえ、顔を真っ赤にしたまま、半ば怒鳴るように言う。
「ネックレス」
「はい!?」
「可愛いの、してるんですね」
一瞬見えたそれを、襟をほんの少しずらし確認した。
自分が選んだピンクゴールドのネックレスのチェーンを。
(ちゃんとしてたな)
和希は笑みを浮かべて愛由美を見る。
「えっ、ああ……っ」
愛由美は俯いた、赤面しているの先程と同じだが、表情が違う、恋をしている女の顔、だ。
「ありがとう」
はっきりと、熱のこもった声で言った。
「もっと見えるようにしてください」
「えっ!?」
「ヘッドも見たいです」
「な、なんで……っ」
「全部見たいです、似合ってそうなので」
「……」
一転、愛由美は口を真一文字に結び、和希を睨みつける。
「何か?」
和希は瞳は涼しく、口元だけ上げて微笑んだ。
「……いえ。なんでも」
愛由美は顔を無表情に戻して、もう一度本を取ってくれた礼を述べて、会計に向かう。
(ふん、すましやがって)
後ろ姿を横目で見送りながら思う。
和希は、自分の口元に笑みが浮かんでいることに気付かなかった。
冨樫が後ろから声をかける。
「びっくりー。お前、何やってんの? 保坂に触るなんて」
和希は軽く咳払いしてから振り向いた。
「別に触った訳じゃない」
「水野と別れて、欲求不満なんだな? あー水野と言えば、新しいの捕まえたらしいぞ、あいつも手が早いな」
(どうでもいい)
「つか、保坂、やっぱいい反応するなー、ありゃ処女だな」
ムッとして冨樫を睨みつける、自分が言うのはいいが他人に言われると腹が立つこともある。
「今度、俺も触ってみようかな、固まってるとこ、そのままかっさらえそうじゃん?」
「犯罪はやめとけ」
自分がしてきた事はまるで棚に上げて、和希は言い放った。
愛由美は無表情のまま会計をしていたが、その心中は穏やかではなかった。
(なんなのあれ!? 可愛いから見せろなんて! しかも口説くだって! さすが兄弟、発想が同じ!? 女なら手当たり次第口説いてるんじゃないの!?)
会計を終え、地下街から出て、やっと緊張を解いた。
途端に心臓が口から飛び出しそうな程早鐘の打ち、顔は耳まで熱くなる。
(ネックレス、可愛い、か……)
そっと首に手を添えた、和希が触れた、その場所に。
(でも晴真との事は聞いてないんだ、聞いてたらあんな事言わないよね。あーでもびっくりした、本当に声、そっくりだった。兄弟って似るって言うもんね)
自分も姉と間違われた事が何度もある。
(晴真の事考えてたから、来てくれたのかと思っちゃった……)
顔を思い出すだけで、キスの感触まで思い出し、さらに顔が熱くなる。
*
その夜、初めて愛由美から『晴真』に、メッセージを送った。
今週もちょっと忙しいけど、日曜日は逢える?と。
すぐに来た返信に愛由美は笑顔になる。
『俺も逢いたい。今すぐに』