クリスマス・イルミネーション
*
「……だからって、なんで私の家……っ」
二人は愛由美のアパートで、ローテーブルを前に、斜向かいに座っていた。
「邪魔されず、誰にも聞かれずに話せるのはここしかないと思って」
和希は胡座をかいて、愛由美を見ていた。正体を隠すためにかけていた伊達眼鏡は、ジャケットの胸ポケットにしまっていた。
たったそれだけなのに、愛由美にとっては学校で見慣れた生徒に戻る。
愛由美は和希を正視が出来ず、正座に固めた拳を乗せ、背中を丸めていた。
「ラブホでも良かったけど?」
愛由美は慌てて首を横に振る。
「正直に言う」
和希は話し出した。
「最初はからかってやろうって思って近付いた」
「からかって……っ!」
「でも、今は違う!」
真剣な和希の顔と声に、愛由美はすぐに怒りを収める。
「何度も逢ううちに、学校では見ない愛由美にどんどん惹かれて行った。本気で愛由美が好きなんだ。こんな別れ方だけはしたくない」
愛由美は驚いたように和希を見ていたが、やがてその瞳がゆっくりと、哀しみに彩られ、泣き出しそうな色に包まれる。
「私……」
視線をゆっくり落とし、消え入りそうな声で言った。
「多分、最初から気付いてた……」
「何を?」
「あなたが、武藤くんだって……」
和希は目を見開いて愛由美を見た、だが愛由美はテーブルを見つめたままだ。
「水野さんが呼んだ時……ああ、やっぱり……って、思ったもの……」
震える手を口に押し当てる。
「自分でも最低だと思う……でも、晴真といると、楽しくて、嬉しくて……晴真ならいいんだって、言い聞かせて……武藤くんと違うとこばかり、一生懸命探して……ある訳ないのに……!」
「愛由美……」
愛由美に伸ばそうとした手が、次の言葉で止まる。
「武藤くんじゃ、駄目なの……っ!」
「なんで! 同じ人間だろ!?」
「同じじゃない! 武藤くんは私の教え子だもん!」
愛由美は和希を見ようとしない、俯いたまま声を張り上げた。
「それだけは駄目……許されないよ……っ!」
「あと何ヶ月かで卒業だ、そうしたら教え子じゃなくなる、それまで待ってくれるのか?」
愛由美ははっきりと首を横に振る。
「それでも駄目……っ!」
「『晴真』なら、いいのか?」
その言葉の意味を、愛由美は理解する、静かに首を横に振る。
「もう、駄目なの……仮面を被ってたって、もう、あなたは武藤くんだから、逢えない……っ」
「なんでだよ、和希も晴真も俺だ、愛由美がそうしたいなら、ずっと晴真でいてやるよ」
「そうじゃない、あなたは教え子で……」
「晴真は違う」
「あなたは武藤くんだから……!」
「晴真でもある」
「違う……っ!」
愛由美が顔を上げた、涙がこぼれ落ちそうに潤んだ瞳を和希に向ける。
「あなたは、晴真じゃない……っ!」
その瞳に負けた、愛由美に辛い思いをさせているとはっきり理解できた。
「ごめん……」
素直に謝っていた。
「本気になるなんて、思ってなかったんだ」
初めは面白がっていただけ、決断を迫られる時が来るとは思わなかった、迫られたら、こんなにも苦渋を強いられるなどとは。
なにより愛由美を傷付けた。それは不思議と、とても居心地が悪かった。
「……どうしても、俺じゃ嫌なんだな?」
静かに聞くと、愛由美はこくんと頷いた。
「判、った」
和希は溜息と共に言った。
「ひとつだけ、聞いてもいいか?」
絞り出すような声に、愛由美は顔を上げ和希を見る。
「晴真のことは、好きだった?」
愛由美はじっと和希を見つめた、大きな瞳が揺れている。
随分してから、視線を伏せて答える。
「……好き」
小さな声に、和希は自嘲気味に微笑んだ。
「なら、いい。俺も、愛由美が好きだった」
その言葉に、愛由美は震える手で顔を覆った。
「……だからって、なんで私の家……っ」
二人は愛由美のアパートで、ローテーブルを前に、斜向かいに座っていた。
「邪魔されず、誰にも聞かれずに話せるのはここしかないと思って」
和希は胡座をかいて、愛由美を見ていた。正体を隠すためにかけていた伊達眼鏡は、ジャケットの胸ポケットにしまっていた。
たったそれだけなのに、愛由美にとっては学校で見慣れた生徒に戻る。
愛由美は和希を正視が出来ず、正座に固めた拳を乗せ、背中を丸めていた。
「ラブホでも良かったけど?」
愛由美は慌てて首を横に振る。
「正直に言う」
和希は話し出した。
「最初はからかってやろうって思って近付いた」
「からかって……っ!」
「でも、今は違う!」
真剣な和希の顔と声に、愛由美はすぐに怒りを収める。
「何度も逢ううちに、学校では見ない愛由美にどんどん惹かれて行った。本気で愛由美が好きなんだ。こんな別れ方だけはしたくない」
愛由美は驚いたように和希を見ていたが、やがてその瞳がゆっくりと、哀しみに彩られ、泣き出しそうな色に包まれる。
「私……」
視線をゆっくり落とし、消え入りそうな声で言った。
「多分、最初から気付いてた……」
「何を?」
「あなたが、武藤くんだって……」
和希は目を見開いて愛由美を見た、だが愛由美はテーブルを見つめたままだ。
「水野さんが呼んだ時……ああ、やっぱり……って、思ったもの……」
震える手を口に押し当てる。
「自分でも最低だと思う……でも、晴真といると、楽しくて、嬉しくて……晴真ならいいんだって、言い聞かせて……武藤くんと違うとこばかり、一生懸命探して……ある訳ないのに……!」
「愛由美……」
愛由美に伸ばそうとした手が、次の言葉で止まる。
「武藤くんじゃ、駄目なの……っ!」
「なんで! 同じ人間だろ!?」
「同じじゃない! 武藤くんは私の教え子だもん!」
愛由美は和希を見ようとしない、俯いたまま声を張り上げた。
「それだけは駄目……許されないよ……っ!」
「あと何ヶ月かで卒業だ、そうしたら教え子じゃなくなる、それまで待ってくれるのか?」
愛由美ははっきりと首を横に振る。
「それでも駄目……っ!」
「『晴真』なら、いいのか?」
その言葉の意味を、愛由美は理解する、静かに首を横に振る。
「もう、駄目なの……仮面を被ってたって、もう、あなたは武藤くんだから、逢えない……っ」
「なんでだよ、和希も晴真も俺だ、愛由美がそうしたいなら、ずっと晴真でいてやるよ」
「そうじゃない、あなたは教え子で……」
「晴真は違う」
「あなたは武藤くんだから……!」
「晴真でもある」
「違う……っ!」
愛由美が顔を上げた、涙がこぼれ落ちそうに潤んだ瞳を和希に向ける。
「あなたは、晴真じゃない……っ!」
その瞳に負けた、愛由美に辛い思いをさせているとはっきり理解できた。
「ごめん……」
素直に謝っていた。
「本気になるなんて、思ってなかったんだ」
初めは面白がっていただけ、決断を迫られる時が来るとは思わなかった、迫られたら、こんなにも苦渋を強いられるなどとは。
なにより愛由美を傷付けた。それは不思議と、とても居心地が悪かった。
「……どうしても、俺じゃ嫌なんだな?」
静かに聞くと、愛由美はこくんと頷いた。
「判、った」
和希は溜息と共に言った。
「ひとつだけ、聞いてもいいか?」
絞り出すような声に、愛由美は顔を上げ和希を見る。
「晴真のことは、好きだった?」
愛由美はじっと和希を見つめた、大きな瞳が揺れている。
随分してから、視線を伏せて答える。
「……好き」
小さな声に、和希は自嘲気味に微笑んだ。
「なら、いい。俺も、愛由美が好きだった」
その言葉に、愛由美は震える手で顔を覆った。