クリスマス・イルミネーション
◇◆◇
「保坂先生、おはようございます」
通り過ぎていく女子生徒がにこやかに言ってくれる。
「おはよう」
いつものように髪を後ろに一つにまとめ、銀縁の眼鏡を掛け、グレーのパンツスーツに身を包んだ愛由美はきりっとした声で応える。
「おはよーございますー」
何人かの生徒に元気に挨拶され、愛由美も返す。
ふと振り返ると、そこに武藤和希がいた。
「……あ」
思わず声が出る、和希は冷めた目で愛由美を見ていた。
(昨日の事、聞いてるのかな?)
慌てて前方に向き直り歩いていると、頭上から声がする。
「……おはようございます、保坂先生」
ドキン、と愛由美の心臓が跳ね上がる、和希の兄と、声がそっくりだと思った。
「お、おはよう、武藤くん」
ふり仰いで挨拶する。こうして見ると、背格好もよく似ていている。
だが、目が合っても和希はにこりともせずにそのまま歩み去った。
「……やっぱり、クール過ぎる」
思わず呟く。
和希は、必死に笑いを堪えていた。
(焦り過ぎだろ、笑える)
脇から友達に声を掛けられ、口の端の笑みを収める。
(さて。どうしようか?)
*
職員室に入ると、思い切って疑問に思っていた事を、和希のクラスの担任に聞いて見ることにした。
「東山先生、おはようございます」
「おはようございます、保坂先生」
「あの、付かぬ事を伺いますが」
「はい」
「武藤くんって、大学生のお兄さんがいますか?」
「うん? 確か、社会人のお兄さんだけだったと。勘違いかな?」
調べます?と言ってくれたが、それは断る。
社会人の兄、昨日の幹事だった者だ。
では、連絡先を教えたあの人物は……。
(やっぱり、和希さんじゃ……)
急に背筋が寒くなった。