クリスマス・イルミネーション
*
家に向かう電車の中で、和希はスマホの画面とにらめっこをしていた。
水野と連絡を取ろうとしたが、電話には出ないし、メッセージにも応えない。
もう愛由美との事を話す気満々なのだろうと想像できた。
(と、なると)
自分から口説いたと開き直るのは簡単だった、それは事実でもある。
でもそれは愛由美の為にならないと判る、教え子と交際した事実は変わらないからだ。
(……どうするか)
家に着くと、浩一がニヤニヤしながら出迎えた。
「よう、不良息子。無断外泊で朝帰りとはやるなあ」
和希はニヤリと笑って返す。
「……兄ちゃん、頼みがあんだけど」
浩一は両耳を塞ぐ。
*
愛由美はいつものように生徒達と挨拶を交わしながら学校へ着いた、こんなにも気持ちの重い朝は初めてだった。
重いのも心だけでなく、体もだがその理由は考えたくはなかった。
職員室のドアを開ける。
「おはようござ……」
自分が現れた途端、しんっとしたのが判る。
何人かの教諭は、ヒソヒソと言葉を交わしている。
既に耳に入ってる、そうはっきり認識するより早く。
「保坂先生」
背後から声が掛かった、副校長だった。
「おは、ようございま……」
「ちょっとよろしいですか?」
挨拶より先に話があると言わんばかりに連れていかれた。
*
校長室で詰問される。
「武藤くんとの事は、話して頂けないと?」
三度目だ。
嘘は言いたくない、でも本当の事も言えない。だからだんまりを決め込んでいる。
昨夜の事がなければ誤魔化す事もできたような気がするが、それも言い訳と思えた。
「このままでは、誰も納得できないのですが。武藤くんにもお聞きしていいですか?」
「それはやめて下さいっ」
生徒は守りたい、それは矜持のようなものだった。
「では、昨日の件を……」
四度目に入ろうとした時、ドアがノックされた。
「はい」
返事をしたのは副校長だった。
ドアは外から開いた、校長が驚いたのが判る、愛由美もゆっくり振り返った。
大きな瞳を潤ませて、現れた人物を確認する。
「……武藤、くん」
ドアを開けた姿勢のまま、和希が微かに笑っていた、それは何故か頼もしく見えた。
和希はドアが開いた空間に、男を引き入れる。
「わっ」
声を上げて現れた男に、愛由美は見覚えがあった。
「浩一、さん」
和希は内心「でかした」とガッツポーズを決める。これで名前も知らないようでは、この先のシナリオが成り立たない。
見えないところで和希に背中を突かれ、浩一は声を上げた。
「愛由美!」
突然呼ばれ、愛由美は驚いたが校長と副校長には背を向けていたのでバレずに済んだ。
浩一はつかつかと歩み寄ると、がばっと愛由美を抱き締める。
(この野郎、やり過ぎだ!)
和希は内心怒鳴るが、顔は冷静を装う。
「俺が悪かった、嫌な思いさせたな!」
「は、はい……」
愛由美は小さな声で答える、意味が全く判らない。
「あの……失礼ですが?」
副校長が聞いた。
「あ、失礼しました。和希の兄の、浩一と申します」
浩一は、愛由美を抱き締めたまま、校長達に話し出す。
「なにやら騒ぎを大きくしてしまって申し訳ありません。実は愛由美と交際しているのは私なんです」
家に向かう電車の中で、和希はスマホの画面とにらめっこをしていた。
水野と連絡を取ろうとしたが、電話には出ないし、メッセージにも応えない。
もう愛由美との事を話す気満々なのだろうと想像できた。
(と、なると)
自分から口説いたと開き直るのは簡単だった、それは事実でもある。
でもそれは愛由美の為にならないと判る、教え子と交際した事実は変わらないからだ。
(……どうするか)
家に着くと、浩一がニヤニヤしながら出迎えた。
「よう、不良息子。無断外泊で朝帰りとはやるなあ」
和希はニヤリと笑って返す。
「……兄ちゃん、頼みがあんだけど」
浩一は両耳を塞ぐ。
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愛由美はいつものように生徒達と挨拶を交わしながら学校へ着いた、こんなにも気持ちの重い朝は初めてだった。
重いのも心だけでなく、体もだがその理由は考えたくはなかった。
職員室のドアを開ける。
「おはようござ……」
自分が現れた途端、しんっとしたのが判る。
何人かの教諭は、ヒソヒソと言葉を交わしている。
既に耳に入ってる、そうはっきり認識するより早く。
「保坂先生」
背後から声が掛かった、副校長だった。
「おは、ようございま……」
「ちょっとよろしいですか?」
挨拶より先に話があると言わんばかりに連れていかれた。
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校長室で詰問される。
「武藤くんとの事は、話して頂けないと?」
三度目だ。
嘘は言いたくない、でも本当の事も言えない。だからだんまりを決め込んでいる。
昨夜の事がなければ誤魔化す事もできたような気がするが、それも言い訳と思えた。
「このままでは、誰も納得できないのですが。武藤くんにもお聞きしていいですか?」
「それはやめて下さいっ」
生徒は守りたい、それは矜持のようなものだった。
「では、昨日の件を……」
四度目に入ろうとした時、ドアがノックされた。
「はい」
返事をしたのは副校長だった。
ドアは外から開いた、校長が驚いたのが判る、愛由美もゆっくり振り返った。
大きな瞳を潤ませて、現れた人物を確認する。
「……武藤、くん」
ドアを開けた姿勢のまま、和希が微かに笑っていた、それは何故か頼もしく見えた。
和希はドアが開いた空間に、男を引き入れる。
「わっ」
声を上げて現れた男に、愛由美は見覚えがあった。
「浩一、さん」
和希は内心「でかした」とガッツポーズを決める。これで名前も知らないようでは、この先のシナリオが成り立たない。
見えないところで和希に背中を突かれ、浩一は声を上げた。
「愛由美!」
突然呼ばれ、愛由美は驚いたが校長と副校長には背を向けていたのでバレずに済んだ。
浩一はつかつかと歩み寄ると、がばっと愛由美を抱き締める。
(この野郎、やり過ぎだ!)
和希は内心怒鳴るが、顔は冷静を装う。
「俺が悪かった、嫌な思いさせたな!」
「は、はい……」
愛由美は小さな声で答える、意味が全く判らない。
「あの……失礼ですが?」
副校長が聞いた。
「あ、失礼しました。和希の兄の、浩一と申します」
浩一は、愛由美を抱き締めたまま、校長達に話し出す。
「なにやら騒ぎを大きくしてしまって申し訳ありません。実は愛由美と交際しているのは私なんです」