クリスマス・イルミネーション
*
二時間目が、よりによって和希のいるクラスの授業だった。
背すじを伸ばし、眼鏡を上げる。教室に入る前のルーティンだ。
勢いを付けてドアを開ける。
「始めます」
凛とした声で告げた。
小柄で童顔の自分が、高校生相手に教師でいるために自分を律した。
笑わない、馴れ馴れしくしない、声も低く。
「まずは、先日の小テストを返します、宇野さん」
一人ひとり、手渡しで返す。
「……羽鳥さん。武藤さん」
返事もせずに立ち上がり、和希は教壇へ近付く。
和希は、わざと愛由美の手の近くで答案用紙を受け取った。
微かに指先が触れる程、近く。
「……っ!」
愛由美は体を震わせた、怯えた目で和希を見上げる。
和希は表情も変えずに、背を向ける。
愛由美は思わず、触れ合った手を胸に当てた。
(わざと、でもなく……偶然?)
跳ね上がった鼓動を抑えて、次の生徒を呼ぶ。
和希は席に着くと、頬杖をついて愛由美を見た。
(いつもトゲトゲしてる保坂が、可愛い反応だなあ)
口元が釣り上がるのを、指で押さえた。
次の三時間目の授業の最中に、隠れてスマホを取り出して、メッセージを送る。
『昨日は楽しかったです。
和希の兄の武藤晴真です。
良かったら、今日会ってくれませんか?』
送信ボタンを押して、思わず微笑んだ。
*
愛由美がメッセージに気付いたのは放課後だった。
思わず受信した時間を確認した。
(……授業中だ)
スマホなどはロッカーにしまうのが決まりだが、でも体育でも無ければ触る事は可能だろう。
和希のクラスは、自分の後は社会科だったと記憶する。
(……『晴真』)
名前を何度も確認する、居ないはずの兄の名前を。
(会わない方が……)
画面を消そうとする、でも、電源ボタンが押せない。
(……会って、確認しよう……!)
返信ボタンを押した。
和希がそのメッセージを受け取ったのは、自宅の部屋だった。
『返信遅くなってごめんなさい。保坂です。
昨日はありがとうございました、お兄さんにもよろしくお伝えください。
今日って、これからでも大丈夫ですか?』
和希は微笑む。
「……会うんだ」
呟いて、返信ボタンを押す。
『会えますか? 嬉しいです。
これからでも大丈夫ですよ』
愛由美からの返信はすぐにあった。
『済ませないといけない事務があります。七時を過ぎても大丈夫ですか?』
「……高校生をそんな時間に呼び出すなんて、悪い先生だな」
笑顔で呟いて、返信する。
『大丈夫です、横浜駅西口の交番の前で待ってます』
今度の愛由美からの返信は、少し間があった。
『はい。お願いします』
二時間目が、よりによって和希のいるクラスの授業だった。
背すじを伸ばし、眼鏡を上げる。教室に入る前のルーティンだ。
勢いを付けてドアを開ける。
「始めます」
凛とした声で告げた。
小柄で童顔の自分が、高校生相手に教師でいるために自分を律した。
笑わない、馴れ馴れしくしない、声も低く。
「まずは、先日の小テストを返します、宇野さん」
一人ひとり、手渡しで返す。
「……羽鳥さん。武藤さん」
返事もせずに立ち上がり、和希は教壇へ近付く。
和希は、わざと愛由美の手の近くで答案用紙を受け取った。
微かに指先が触れる程、近く。
「……っ!」
愛由美は体を震わせた、怯えた目で和希を見上げる。
和希は表情も変えずに、背を向ける。
愛由美は思わず、触れ合った手を胸に当てた。
(わざと、でもなく……偶然?)
跳ね上がった鼓動を抑えて、次の生徒を呼ぶ。
和希は席に着くと、頬杖をついて愛由美を見た。
(いつもトゲトゲしてる保坂が、可愛い反応だなあ)
口元が釣り上がるのを、指で押さえた。
次の三時間目の授業の最中に、隠れてスマホを取り出して、メッセージを送る。
『昨日は楽しかったです。
和希の兄の武藤晴真です。
良かったら、今日会ってくれませんか?』
送信ボタンを押して、思わず微笑んだ。
*
愛由美がメッセージに気付いたのは放課後だった。
思わず受信した時間を確認した。
(……授業中だ)
スマホなどはロッカーにしまうのが決まりだが、でも体育でも無ければ触る事は可能だろう。
和希のクラスは、自分の後は社会科だったと記憶する。
(……『晴真』)
名前を何度も確認する、居ないはずの兄の名前を。
(会わない方が……)
画面を消そうとする、でも、電源ボタンが押せない。
(……会って、確認しよう……!)
返信ボタンを押した。
和希がそのメッセージを受け取ったのは、自宅の部屋だった。
『返信遅くなってごめんなさい。保坂です。
昨日はありがとうございました、お兄さんにもよろしくお伝えください。
今日って、これからでも大丈夫ですか?』
和希は微笑む。
「……会うんだ」
呟いて、返信ボタンを押す。
『会えますか? 嬉しいです。
これからでも大丈夫ですよ』
愛由美からの返信はすぐにあった。
『済ませないといけない事務があります。七時を過ぎても大丈夫ですか?』
「……高校生をそんな時間に呼び出すなんて、悪い先生だな」
笑顔で呟いて、返信する。
『大丈夫です、横浜駅西口の交番の前で待ってます』
今度の愛由美からの返信は、少し間があった。
『はい。お願いします』