クリスマス・イルミネーション
「ぎこちな」
「う、うるさいなっ」
「そうそう、その感じ」
嬉しそうに笑う和希を、愛由美はジャケットの中から見上げる。
「せ、せめて、くん付けで……」
「駄目、呼び捨てにできなかったら返さない」
「はい?」
「早く」
和希は自分でも不思議だった。
普段ならこんな我儘な事は言わない、面倒だからだ。
『晴真』と言う立場だと、なんでも出来そうな気がしてきた。
「早く呼んでよ、愛由美」
熱っぽい声で言われ、愛由美は心臓が飛び出しそうだった。
腕の中に囚われていると、それが知られてしまいそうで怖かった。
「判ったから! 晴真っ!」
「そんな投げやりに言われてもなあ」
和希は笑いながらも愛由美を解放した。
「で? 何食べたい?」
口の端を釣り上げて言う和希に、愛由美はきっ、と視線を上げて言い放つ。
「ラーメンっ!」
和希はこめかみに青筋を浮かべたが、ラーメンを食べたい愛由美の意見は尊重する事にした。
*
駅近くにある『たぬき小路』と呼ばれる通りにあるラーメン屋に入った。
店は食券だ、お金は愛由美が払う。
「え、いいよ……」
和希は言った。
「いいよ、私、社会人だよ? 学生さんにラーメンくらい奢るよ」
『晴真』は大学生と言う設定だ。
「……ありがとう」
本当は高校生の和希には新鮮だった。
デートではジュースくらいなら奢ることあるが、ご飯ともなれば必ず割り勘だ。
(ふうん。こんだけ年上の女ってのもいいな)
一階にはカウンターしかない店だ、お世辞にも綺麗とは言えない店内で並んで座る。
「はあ。初めてのデートなのに、色気ないな」
和希が愚痴る。
「いいじゃない。ラーメン屋さんって女一人で入るの、勇気いるんだもん」
愛由美は湯気が立ち上る大きな鍋を見てご機嫌だ。
「ふうん」
(こんな風に笑うんだな)
「まあ、嬉しいならいいけど」
やがて、出てきたラーメンに、愛由美は眼鏡を曇らせる。
「あ、もうっ」
「ラーメンの時、眼鏡はな」
「邪魔っ」
愛由美は眼鏡を外し、脇に置いた。それを見て和希も外す。
はっきりした視界を失った愛由美は、目の前のラーメンに夢中だ。
一方和希は視力はしっかりしている、愛由美の横顔を見つめた。
「……今日は、なんで眼鏡?」
眼鏡の顔の方が見慣れているが、『晴真』は愛由美が眼鏡なのは初めてだ、疑問として聞いて見た。
「うーん」
麺に息を吹きかけながら言う。
「私、高校で英語の教師やってるの」
(知ってる)
和希は心の中で笑う。
「一年目の時にね、たまたま男子生徒と仲良く話していたのを先輩先生に見られて、怒られたの」
「へえ?」
「私、背も低いし、童顔だからかな、なんか変に誤解されて。色目を使うなとかなんとか。そんなつもり全然なかったのに、そんな風に言われて、哀しくなって。だから少しでも大人っぽくと言うか、見た目だけでもバカにされないように、学校では眼鏡にしてるの。少し賢そうに見えるでしょ?」
愛由美の告白に、和希は思わず自分が外した眼鏡を見た。
「う、うるさいなっ」
「そうそう、その感じ」
嬉しそうに笑う和希を、愛由美はジャケットの中から見上げる。
「せ、せめて、くん付けで……」
「駄目、呼び捨てにできなかったら返さない」
「はい?」
「早く」
和希は自分でも不思議だった。
普段ならこんな我儘な事は言わない、面倒だからだ。
『晴真』と言う立場だと、なんでも出来そうな気がしてきた。
「早く呼んでよ、愛由美」
熱っぽい声で言われ、愛由美は心臓が飛び出しそうだった。
腕の中に囚われていると、それが知られてしまいそうで怖かった。
「判ったから! 晴真っ!」
「そんな投げやりに言われてもなあ」
和希は笑いながらも愛由美を解放した。
「で? 何食べたい?」
口の端を釣り上げて言う和希に、愛由美はきっ、と視線を上げて言い放つ。
「ラーメンっ!」
和希はこめかみに青筋を浮かべたが、ラーメンを食べたい愛由美の意見は尊重する事にした。
*
駅近くにある『たぬき小路』と呼ばれる通りにあるラーメン屋に入った。
店は食券だ、お金は愛由美が払う。
「え、いいよ……」
和希は言った。
「いいよ、私、社会人だよ? 学生さんにラーメンくらい奢るよ」
『晴真』は大学生と言う設定だ。
「……ありがとう」
本当は高校生の和希には新鮮だった。
デートではジュースくらいなら奢ることあるが、ご飯ともなれば必ず割り勘だ。
(ふうん。こんだけ年上の女ってのもいいな)
一階にはカウンターしかない店だ、お世辞にも綺麗とは言えない店内で並んで座る。
「はあ。初めてのデートなのに、色気ないな」
和希が愚痴る。
「いいじゃない。ラーメン屋さんって女一人で入るの、勇気いるんだもん」
愛由美は湯気が立ち上る大きな鍋を見てご機嫌だ。
「ふうん」
(こんな風に笑うんだな)
「まあ、嬉しいならいいけど」
やがて、出てきたラーメンに、愛由美は眼鏡を曇らせる。
「あ、もうっ」
「ラーメンの時、眼鏡はな」
「邪魔っ」
愛由美は眼鏡を外し、脇に置いた。それを見て和希も外す。
はっきりした視界を失った愛由美は、目の前のラーメンに夢中だ。
一方和希は視力はしっかりしている、愛由美の横顔を見つめた。
「……今日は、なんで眼鏡?」
眼鏡の顔の方が見慣れているが、『晴真』は愛由美が眼鏡なのは初めてだ、疑問として聞いて見た。
「うーん」
麺に息を吹きかけながら言う。
「私、高校で英語の教師やってるの」
(知ってる)
和希は心の中で笑う。
「一年目の時にね、たまたま男子生徒と仲良く話していたのを先輩先生に見られて、怒られたの」
「へえ?」
「私、背も低いし、童顔だからかな、なんか変に誤解されて。色目を使うなとかなんとか。そんなつもり全然なかったのに、そんな風に言われて、哀しくなって。だから少しでも大人っぽくと言うか、見た目だけでもバカにされないように、学校では眼鏡にしてるの。少し賢そうに見えるでしょ?」
愛由美の告白に、和希は思わず自分が外した眼鏡を見た。