クリスマス・イルミネーション
「……それで、服も、いつもパンツスーツなんだ? 女っぽさを出さないように?」
「うん。うん? よく知ってるね?」
「あ、ああ、和希に聞いて……可愛い気ないって」
「ええ!? 武藤くんめっ」
「昨日、可愛かったから、そんな風に話を持って言ったら、あり得ないって言われたんだよ」

(それは本当だよ)

和希は心の中で呟いた。

「えっ、あ、ありがとう……だったら学校ではうまくできてるってことだよね、うん、良かった……」

一人納得して食べる愛由美を、和希はじっと見つめた。

「……そんな思いしてまで。なんで教師なんかやってるの?」
「うちね。両親も姉達も小学校の教諭やってる、先生一家なのよ」

麺を一口頬張ってから、言葉を繋ぐ。

「なんとなく教師にはならないって選択肢はない雰囲気で。でも体育と算数が苦手だから、小学校は無理だなって思って、なんとか得意な英語の先生にはなってみたけど、できればほかの仕事に就きたいかな」
「なんで?」
「尋子なんか見てると楽しそうで……あ、昨日の幹事の子ね。OLって響きがいいじゃない」
「響きねぇ」

まだ将来のことなど考えていない和希には、今ひとつピンとこなかった。





店を出ると、愛由美は温度差から体を震わせた。

「昼間はまだあったかいけど、夜は冷えるね」

和希はそう言うと、愛由美の肩を抱いた。

「え……!?」
「少しはあったかいでしょ」

微笑まれて、愛由美は「うん」と答えていた。

「さて。食べ終わったし、帰るつもり? デートの続きをするつもりは?」
「で、デート!?」

真っ赤になって言う愛由美に、和希は吹き出す。

「もう、さっきから言ってるじゃん」
「だってっ、昨日会ったばっかりなのに……!」
「いいじゃない」
「そもそも、ご飯食べようって!」
「だから。食べたから帰るのかって聞いてるの。帰りたいの?」
「帰り……」
「帰さないけど」

肩を抱く腕に力を込める。

「え!?」

見上げた和希は、にやりと人の悪い笑顔を浮かべていた。

「少しくらいいいでしょ?」
「……結構、強引……っ」
「行こ行こ」

自分でも意外だった。別人のフリをして恋をするのも楽しいかも知れない。
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