クリスマス・イルミネーション



近くの横浜モアーズにあるスターバックスに寄ってみたが、満席で座れなかった。
和希はグランデサイズのカフェモカを購入する、勿論これは和希のお金だ。

店を出ると、ジーンズのポケットに手を入れたまま、

「ん」

肘で愛由美を突く。

「え?」
「腕、組もう」
「えええー……」

言いながらも愛由美は掌をその腕にかける。

(意外と素直なんだな)

和希は微笑んだ。

二人は連れ立って歩き出す。

西口から東口へ。

地下街に入ると、クリスマスの飾り付けが目立った。

「クリスマスかあ……」

愛由美が呟く。

「近くになったら、どっかイルミネーション、見に行く?」

和希は笑顔で聞いた。

「……」

愛由美は見上げたきり、言葉を発しない。

「なに?」
「……なんでも。考えとく」

愛由美は不服そうな表情で顔を背けた。

和希は気にはなったが、敢えて突っ込まなかった。
どうせ男慣れしてないからだろうくらいに思っていた。

横浜そごうの屋上に着いた。

「わあ……」

夜景を見た愛由美は歓声を上げる。

「初めて?」

和希は満足そうに聞いた。

「ビアガーデンに来たことあるけど、こんなに綺麗だなんて知らなかった!」

みなとみらい地区の夜景が、目の前に広がっていた。

「すごーい! 連れて来てくれてありがとう!」

素直な感想と、とびきりの笑顔を向けられて、和希は思わず視線を彷徨わせる。

その時一陣の風が吹いた。
薄着の二人には冷たい風が。

「ひゃあ」

愛由美は思わず首元を手で覆う。

和希は、背後から愛由美を抱き締めた、さっきと同様に、ジャケットに閉じ込めるように。

「あ、あの……っ」

声を上げて逃げようとした愛由美を、和希はしっかり抱き寄せる。

「こうした方があったかい。俺も愛由美も」
「さ、さっきから、思ってたんだけど」
「なに?」
「女の子、口説き慣れてるでしょ」
「さあ?」
「あんまり、こういう事はしない方がいいと思う」
「こういうこと?」
「抱き締めるとか、腕組もうとか、く、クリスマスのイルミネーション、見に行こう、とか」
「? そう?」
「ご、誤解、するよっ」
「誤解? どう誤解?」
「だからっ! く、口説かれてるのかな、とか!」
「そう思った?」
「思ってない! と思ってるから言ってるの!」
「ない?」
「私は8歳も年上だし!」
「あー……(実際には10歳な)」
「でも年の近い子とかにやったら、絶対誤解されるだろうから、やめた方がいいよ!」
「されてもいいけど。誤解」
「はっ!?」
「年なんか関係ないし。そんな童顔のくせに」
「き、気にしてるのに……っ! って、私とは……っ!」
「なんで? 駄目?」
「な、なんで、私……っ!」
「気になったから。でなきゃ昨日の今日で会いたいなんて思わない」
「う……っ」

愛由美は次の言葉を失った。

和希は突然腕に力を込め、愛由美毎移動し、近くのコンクリートの基礎に腰掛ける。

ちょこん、と和希の膝に座る形になった愛由美は焦ってもがく。

「そういうとこが……!」

膝の上に座われば、ちょうど頭の高さが同じくらいになった、和希は愛由美の耳元で笑う。
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