最強の暗黒龍は喪女にゾッコン ~VRMMOの裏ボスが子作り前提で求愛してきました~
くっそー! ここで反復横飛びとか、スクワットとか、壁に向かって延々と走ったら、エンカウントの乱数調整ができるとかない?
ああ。乱数調整って言うのは、規則性のない数値を意図的に発生させることね。
この手の業界ではよく使う単語だから、みんな、覚えておこうね!
ゲーム脳拗らせてるから、現実逃避すると、どうしてもそっちに行っちゃうんだよ。
ええい! 考えるな、感じろだ。間に合え――。
そんな刹那の祈りと共にドアノブに手をかけた。
本当にコンマレベルの僅差だった。私が相手が開けるより先に開けられた。
開けた扉の向こう側には、スーツ姿で細身の男が立っていた。
「や、やあ……いらっしゃい」
引きつった笑顔、上擦った声で挨拶をする。
もっとがんばれ、私! 平常心だ、いつも通りのありのままの自分で接しろ!
ロールプレイング! いつもゲームの中で、ソレイユをロールプレイしてるんでしょ!
それと一緒だって! さあ日向、RPGの基本を思い出して!
「鍵が開いてなかったけど。もしかして、メール見てなかった?」
「い、今見た! 今見たから、鍵開けなきゃって……玄関に来たんだけど」
「そう。思っていたより、元気そうだね……姉さん」
男の手には、鞄とスーパーの袋が下がっていた。