最強の暗黒龍は喪女にゾッコン ~VRMMOの裏ボスが子作り前提で求愛してきました~
ドアの隙間から奥から幼女の母親を呼ぶ声が聞こえた。
おばさん……いや、確かに私はもうおばさんなんだけど、幼女に言われると何となく悲しいと言うか、虚しい。
それにしても、私が「おばさん」なのに、エヴィエニスが「おにーさん」なのが解せない。子供の言う事だから、大人気なく追求したりはしないけど。
苦笑いを浮かべていると、ドアが開いて、若い女性が出てきた。
「あら、竜ヶ崎さん。どうなさったんですか?」
「こんにちは、杉浦さん。実は同居人が増えることになりまして。その挨拶に伺ったんです」
お隣の杉浦すみれさんは、働くシングルマザーだ。
母と子一人で、暮らしていて、さっきの幼女はすみれさんの一人娘の楓ちゃんだ。
近くの保育園に通っているらしく、すみれさんと出勤時間が被ることが多い私とは、名前を覚える程度には顔見知りだ。
すみれさんは、私とその隣に立つエヴィエニスを交互に見比べて、
「あらまあ、龍ヶ崎さん。ご結婚おめでとうござい――」
「違います。こちらは私の所でお世話することになった技能実習生のエヴィ・エニスさんです。出身国はセントビンセント及びグレナディーン諸島で、日本の文化や言葉に慣れてません。ご迷惑をかけると思いますが、どうぞよろしくお願いします」
笑顔で祝福してくれようとしたすみれさんに、即否定で返す。
私が促すと、エヴィエニスは無言で合掌し、軽く会釈する。
「ドーモ、スギウラサン。エヴィエニス、デス」
と、某サイバーパンク忍者めいたアトモスフィアを滲ませる挨拶をした。
私が教えた『日本語は喋れないけど、日本のカルチャーは大好きな外国人』のフリだ。
出身国は朝食後にネットで調べて、適当に宛がった。
功一郎に「やたらと国名が長い」と言ってしまった手前、日本語で国名が長い国を検索したら、おあつらえ向きの国があったから決めた。
噛まずに一発で言えるように、ちょっとだけ練習した。