最強の暗黒龍は喪女にゾッコン ~VRMMOの裏ボスが子作り前提で求愛してきました~

 怒鳴った内容の通り、私の入浴中にエヴィエニスが風呂に入ってきた。
 肉親である父だって、私が小学校高学年になったら「一緒に入ろう」とは言わなくなった。
 普通、入ってくる前に声くらいかけるだろう。あり得ないだろ。変態にしかできない所業だ。
 湯煙の向こう側に現れた全裸のエヴィエニス。悲鳴を上げるのも忘れて、ただただ絶句してしまった。
 叫ぶのは忘れたけど、手に持っていた歯磨き粉のチューブは投げつけた。
 間一髪で避けられたけど……。
 元を辿れば、私が少々迂闊だったのも否めない。次からは施錠はしっかりしよう。

「今回は水に流しますが、二度としないでください。次ぎやったら、番の件はなかったことにします」

「む? 最弱種族の分際で、この我を脅すとはいい度胸だ」

 あー、この口振りは悪いことしたって分かってないヤツだ。
 エヴィエニスは、本能の赴くままで生きている。今やりたいことを今やってしまう。
 私が入浴中のタイミングでお風呂に入ってきたのは、本当に不可抗力なんだろうけど、それではいかんのだ。
 そんな分析のおかげで、少しだけ冷静になれた気がする。

「あのですねぇ。これは脅しじゃなくて、忠告です。この世界で生きていくと決意した以上、しばらくは私の指示に従ってくださいよ。エヴィさんだって、お先真っ暗な人生は嫌でしょう?」

 額を抑え、ため息混じりにそう諭す。
 正座と説教にうんざりした様子のエヴィエニスも「ふむ、確かにそうだ」と、腕組をして納得してくれた……と思いたい。
 明日も仕事だし、説教は以上にて寝よう。
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