最強の暗黒龍は喪女にゾッコン ~VRMMOの裏ボスが子作り前提で求愛してきました~
ヤツはいつ、何処からでも忍び寄ってくる――。
世界で最も混沌や破滅に近い存在だろう。
……いや、私からすればそうなんだよ。
窓やドアの隙間、ケーブルの配管、トイレの排水溝。ヤツに侵入できない場所などない。
息巻く私の足元を小さな黒い物体がカサカサと横断し、ソファの下に消えて行った。
黒光りする流線型のボディ。長い触覚。残像が残りそうなほど素早いその動き。
その生物の名前が脳裏に浮かぶのとほぼ同時に、私はエヴィエニスの背中に飛びついていた。
「ばぁああああああああああああッーーー!!!」
私が助走をつけてぶつかっても、エヴィエニスはビクともしないし、痛がる様子もない。
私が奇声を上げながら飛びついてきた、この状況が飲み込めないらしく、目が点になっている。
広くて逞しい背中に、コアラみたいにしがみ付いて離れない私をどうすべきか判断に困っている。
自分でも何で飛びついちゃったのか、咄嗟だったけど後悔してるよ!
いやいやいやいや、そんなことどうでもいいんだ。早くヤツを――。
「お前と言うヤツは、定期的にその奇声を上げぬと気が済まんのか? キンジョメイワクだぞ!」
「んなのは、どうでもいいんですよ! ヤツです。エヴィさん、とうとう! 私の部屋にヤツが! ソファの下に! んぎぃいいいいいッーーー」
「落ち着け。ヤツとは何者なのだ?」
「ヤツは人類が恐れる……そう、史上最強の刺客です!」
「な、なんだと!?」
錯乱する私の言葉聞いて、エヴィエニスがかつてないほどに驚愕している。
とあるマンションの一室で、その戦いは起きてしまった。
ヤツ――、通称Gと言うコードネームで呼ばれる場合も少なくない。