最強の暗黒龍は喪女にゾッコン ~VRMMOの裏ボスが子作り前提で求愛してきました~
現時刻をもって、リビングに非常事態宣言を発令する。
完遂すべきミッションは、史上最強の宿敵、漆黒の翼の撃退。
ドラゴンと龍殺し(オタ女)の一夜の共闘が開戦された。
「たかが、虫ケラ一匹に怯えておったのか。最弱種族は虫すら満足に倒せんのか」
漆黒の翼が潜伏するソファを遠巻きから監視する私とエヴィエニス。
私の手には殺虫スプレーが握られ、エヴィエニスには捕獲用のガムテープを持たせた。
落ち着きを取り戻した私から事情を聞いたエヴィエニスは、ぶつくさ文句を垂れている。
「たかが虫一匹、されど虫一匹です。ヤツを侮ってはいけませんよ。ヤツらは人の生まれる前の太古からその姿をほとんど変えていません。そして最も恐ろしいのは、その驚異的な生命力。千切れた足を再生させ、雌のみでの生殖が可能だと最近の研究で解明されたんです」
「嫌っているわりには詳しいのだな。あの虫ケラ、なんと言ったか? 確か、ゴキ……」
「あー! やめて、その名前は聞きたくないッ!」
わー! と言いながら両耳を押さえる。
あからさまに嫌な顔をされたが、名前も聞きたくないレベルで嫌いなんだから仕方がない。
「さあ、さっき立てた作戦を再確認しますよ。ヤツがソファの下から出てきたら、私がこのスプレーをヤツに吹きかけます。ヤツの動きが止まったところで、エヴィさんがガムテープで捕縛です」
「こんな面倒で時間のかかることをせんでも、その辺の雑誌を丸めて、叩けば一撃で仕留められるぞ?」
「叩き潰したら、ヤツの残骸が飛び散るだろうが! 床も汚れるし、見た目もグロいから絶対駄目!」
「では、我のブレスで足一本残らぬように滅却するか?」
「マンションごと塵になるわ! 魔法は禁止!」
「むー、面倒だな。そもそも、本当に殺さねばならんのか?」
「数多の冒険者を葬ってきた暗黒龍が何言ってるんですか。んあ! エヴィさん、見て!奴が出てきましたよ!」