最強の暗黒龍は喪女にゾッコン ～VRMMOの裏ボスが子作り前提で求愛してきました～

　黒い物体が、触覚を忙しなく動かしながら出てきた。
　ヤツは早い。一瞬の判断ミスが命取りになる。仕掛けるタイミングは今しかない。

「うおあああ！　死にさらせぇー！」

「待て、ヒナタ。その虫は――」

　エヴィエニスの静止を振り切って飛び出す。
　雄叫びを上げなら、漆黒の翼にスプレーの発射口を向けた。
　勝った。私はそう確信していた。
　しかし、

「ヒィッ！　なんでこっちに飛んでくるの？　うわ、ちょっとマジで……うわぁああ！」

　決死の逃走劇。一か八かの勝負に出たのは私だけではなかった。
　迂闊だった。ヤツには羽根がある。空が飛べるヤツの逃走経路は、床の上だけではなかった。
　宙を我が物顔で飛ぶヤツの動きがあまりにも早すぎて、避けられない。
　大袈裟かもしれないが、私は死を覚悟した。

「ぬんッ！」

　私に向かって飛翔した漆黒の翼、その間に自ら防壁として割り込んだエヴィエニス。
　自分を犠牲にして私を庇いつつ、その大きな手が鷲掴みにした。
　ミッションクリア。緊張が解けて、ヘナヘナとその場に座り込む私。
　捕獲成功――だけど、エヴィエニスはどうするつもりなのだろう？
　まさか、そのまま握りつぶす気じゃ……。